台湾鉄路管理局EMU3000型電車

概要

EMU3000型電車は、台湾鉄路管理局（台鉄）が導入した新型都市間輸送用電車です。老朽化した自強号（特急に相当）や莒光号（急行に相当）、南廻線の気動車列車を置き換えるため、600両が発注されました。2021年末から順次投入されています。

この計画は、2015年以降に策定された台鉄の大型調達計画「新型城際電聯車」の一環として進められました。従来のTEMU1000型やTEMU2000型電車は8両編成で、輸送力に課題があったため、EMU3000型は12両編成に長大化されました。また、モノクラス制ではなく、1両は日本のグリーン車に相当する「商務車（ビジネスクラス）」が設けられています。さらに、4編成48両は観光列車としての運用も予定されています。最優等列車への上位クラス設定は、1990年代に試験的に行われたEMU100型電車以来となります。

EMU3000型の導入により、旧型のEMU1200型やEMU300型電車などが置き換えられます。2021年には、グッドデザイン賞を台鉄と日立グループの台湾日立アジアパシフィック社が共同で受賞しました。

沿革

調達まで

2016年に基本仕様が決定し、2018年5月に第1次入札が行われましたが、応募企業が規定の3社に満たず不成立となりました。同年10月、日立製作所とスイスのシュタッドラー・レールの2社による選考となりました。シュタッドラーは、スイス国鉄RABe501形電車に採用されているSMILEをベースにした車両を提案しましたが、12月に日立が選出されました。価格面ではシュタッドラーが若干安かったものの、台湾高速鉄道や台鉄への納入実績で勝る日立に軍配が上がりました。

2019年1月、台鉄と日立は正式に調達契約を締結しました。同年12月に仕様が一般公開され、実車は2021年1月に2編成24両、残りの48編成576両は2021年から2024年にかけて4分割で投入されることになりました。

シュタッドラーは、スイスと台湾が山岳地帯であることや、スイスでの狭軌路線での実績などをアピールしましたが、アジア初進出は実現しませんでした。しかし、台鉄が翌年に行った電気機関車と電気式ディーゼル機関車の入札では、東芝と受注を分け合い、台湾初進出を果たしました。

納入まで

2020年末予定だった1次車の受領は、新型コロナウイルスの影響で遅れ、営業運転開始も2021年2月に延期されました。その後、技術者の渡航問題により、6月の引渡も延期、7月末に花蓮港に上陸しました。

上陸に先立ち、台鉄は車両限界測定のため、引退済みのEMU100型電車を花蓮臨港線に乗り入れさせました。また、花蓮港駅から分岐する臨港線の支線を8号埠頭まで延長し、建築限界確認のためDR2800型気動車12連を試運転しました。

日立は、笠戸事業所で安全祈願式を行い、第1編成を搭載した貨物船は7月30日に花蓮港に入港、陸揚げには交通部長（閣僚）も立ち会いました。

樹林調車場（台北機務段）への回送と構内試運転を経て、8月19日より本線での試運転が開始されました。

運行開始まで

台鉄は2021年12月29日のダイヤ改正から、TEMU1000型で運行されていた東部幹線の太魯閣号3往復を自強号に置き換え、認証が得られ次第EMU3000型に置き換えることを発表しました。

12月1日、第三者安全認証（IV&V）を仮取得し、8日に台東県内で試乗会を開催しました。12月21日にIV&Vを正式取得し、26日には関係者を招いて記念式典と記念列車運行が行われました。

納入・運行概況

以下は花蓮港への陸揚げ日です。

2021年

第2編成：9月3日
第6編成：12月6日
第7編成：12月29日

2022年

第8編成：3月2日
第9編成：3月11日
第10編成：4月6日
第11編成：4月16日
第12編成：4月27日

2021年12月29日のダイヤ改正で3編成、2022年3月29日の改正で4編成が追加投入されました。

2024年8月6日には、最後の50編成の引き渡し式が行われ、全600両が揃いました。

商務車

台鉄は2021年11月13日、商務車（ビジネスクラス）の正式名称を「騰雲座艙」と発表しました。運賃は自強号普通車の約1.4倍から2.2倍で、50km以内の区間は発売されません。飲食物は、前日17時までなら4種類の飲み物と5種類の食べ物から一つずつ予約できます。それ以降は当日在庫があるものが提供されます。12月29日から正式運行が開始されました。

EMU3000型で運行される自強号では、満席時の立席券は販売されず、ICカードや定期券での乗車もできません。12両編成の座席定員は536人で、TEMU1000型やTEMU2000型よりも輸送力が向上しています。専属の乗務員が客室サービスを提供しており、担当従業員はチャイナエアラインで訓練を受けています。

2022年末に登場予定の観光列車仕様では、商務車内にカウンターバーが設置される予定です。

仕様

動力車と無動力車の比率（MT比）は1:1の6M6Tで、全車両にWi-Fi、大型手荷物置き場、全座席にコンセントとUSB充電設備が備えられています。商務車は1+2アブレスト配置です。

台鉄が2019年に立ち上げた「台鉄美学」チームが外部デザイナーと連携し、鳴日号やEMU900型電車に続いて、新たなコンセプトで設計されました。デザインは、従来の暖色系から白黒のモノトーンを基調としたものに一新されました。先頭形状は、日立のA-trainシリーズで、イギリスで運行されているクラス800に準じた設計となっています。

制御装置は日立製SiCハイブリッドモジュール適用VVVFインバータで、静止形インバータ（SIV）は東洋電機製造が納入しています。

一般車の座席リクライニング角度の調整は、改良事項として実施予定です。2024年4月には、座席の座り心地が不評であることから、3年毎の定期検査の際に新設計の座席に交換されることが報道されました。

受賞歴

2021年

グッドデザイン・ベスト100（日本デザイン振興会）

2022年

iFデザイン賞（インダストリー・フォーラム・デザイン）

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