台風騒動記

映画『台風騒動記』解説

概要

『台風騒動記』は、1956年（昭和31年）に公開された山本薩夫監督による日本映画です。山本プロダクションとまどかグループが製作し、松竹が配給しました。モノクロ、スタンダードサイズで、上映時間は107分です。この映画は、杉浦明平のルポルタージュ『台風十三号始末記』を原作としており、台風による災害を背景に、不正な補助金取得を企む町の人々と、それに異を唱える人々との対立を、ユーモラスかつ社会的な視点から描いています。

ストーリー

昭和31年、海沿いの町・富久江町は台風13号によって甚大な被害を受けます。役場は救援物資を求める被災者で溢れかえる一方、町議会では、台風で被害を受けた学校に多額の補助金が出るという話を利用し、故意に小学校を破壊し、補助金で新しい校舎を建てようという計画が持ち上がります。町長は責任者として取り壊しを決定し、工事請負人が作業を開始します。そんな中、大蔵省から監査官が派遣されるという情報が入ります。町長夫人は、小学校の教師・里井を訪ねる人物を監査官と勘違いし、料亭で接待しようとします。そこで、芸者の静奴から町の陰謀を聞かされたその男は、避難所で暮らす貧しい人々の姿を見て、不正を暴くことを決意します。本物の監査官が到着し、町の不正を見抜くと、補助金は怪しくなり、予算がないまま小学校の地鎮祭が行われます。町長は住民に寄付を求めますが、町民は動揺し、遂に里井が補助金が出ない事実を暴露します。

テーマ

本作のテーマは、「天災は恐ろしいが、この国では天災のあとに、もっと恐ろしいものがくる。それは人災である」というものです。これは、原作の一節「一つの大きな天災がすぎたあと、必ずおそるべき人災がつづいてくる」に基づいています。映画は、自然災害という緊急事態を利用して私腹を肥やそうとする人間の欲望と、それによって引き起こされる社会的な不正を鋭く批判しています。

キャスト

吉成幸一：佐田啓二
里井努：菅原謙次
静奴（料亭の芸者）：桂木洋子
志水妙子（小学校の先生）：野添ひとみ
山瀬弥三郎（町長）：渡辺篤
山代（町会議員）：三井弘次
川井釜之助（町のボス、町会議員）：三島雅夫
里井太郎（努の父）：佐野周二
山瀬みえ（町長夫人）：藤間紫
よし（料亭の女将）：宮城千賀子

スタッフ

監督：山本薩夫
製作：松本酉三、吉野順二
脚本：八住利雄、山形雄策
原作：杉浦明平
撮影：前田実
音楽：芥川也寸志
美術：平山透徹
録音：安恵重遠
編集：河野秋和

受賞歴

第30回キネマ旬報ベスト・テン 第7位
第11回毎日映画コンクール 男優主演賞（佐田啓二）
第7回ブルーリボン賞 助演男優賞（多々良純）

制作の背景

本作は、実際の事件をモデルにしています。原作となったルポルタージュ『台風十三号始末記』は、1953年に愛知県渥美郡福江町を襲った台風13号による被害と、それをきっかけに起こった事件を描いています。映画では、登場人物や設定はフィクションですが、小学校の建て替えをめぐる騒動は、実際にあった出来事を基にしています。福江町では、台風による被害を受けていないにも関わらず、補助金を得るために学校を破壊し、建て替えるという計画が実行されました。しかし、実際には告発によって偽装が発覚し、補助金は打ち切られます。

映画のラストでは、補助金が出ないことが町民の前で暴露されますが、現実には工事は町の予算で強行され、巨額の費用がかかりました。また、映画に登場する川井釜之助のモデルは、福江町・渥美町の議員であった川口釜之助です。彼は映画公開後、自分がモデルになったことを全く気にせず、むしろ喜んでいたとされています。

作品の評価

『台風騒動記』は、社会派喜劇として、当時の社会の矛盾や人間の欲望をユーモラスに描き出しており、高い評価を得ています。特に、佐田啓二をはじめとする俳優陣の演技や、山本薩夫監督の演出が評価されています。また、実際の事件を基にしている点も、作品にリアリティを与えています。

本作は、単なる喜劇としてだけでなく、社会問題を提起する作品として、今日においても観る価値のある映画と言えるでしょう。

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