賈謐

賈謐（か ひつ）

賈謐（か ひつ、生年不詳 - 永康元年4月3日（300年5月7日））は、中国西晋時代の政治家です。字は長深。元は韓謐と名乗っていました。父は散騎常侍の韓寿、母は西晋建国の功臣である賈充の四女・賈午であり、恵帝の皇后である賈南風の甥にあたることから、その権勢を背景に政治の中枢で活躍しました。

生涯

賈充の後継者として

賈謐は、元々は魏の司徒であった韓曁の玄孫にあたり、韓姓を名乗っていました。しかし、太康3年（282年）に母方の祖父である賈充が亡くなると、賈充には男子の後継者がいなかったため、賈充の妻であった郭槐は、外孫である韓謐を賈充と郭槐の息子（既に死去）の養子として迎え、賈充の後継者に据えようとしました。この措置は礼制に反すると多くの人々から反対を受けましたが、郭槐が賈充の遺志であると司馬炎に上奏した結果、賈充の功績に免じて特例として認められました。これにより、韓謐は姓を賈に改め、賈謐と名乗るようになりました。その後、賈謐は朝廷に取り立てられ、散騎常侍・後軍将軍などの要職を歴任しました。

権勢を掌握

太熙元年（290年）に司馬炎が崩御し、司馬衷（恵帝）が即位すると、叔母である賈南風が皇后に立てられました。永平元年（291年）3月、賈南風は当時権勢を振るっていた司馬炎の外戚である楊駿を妬み、宦官の董猛・孟観・李肇や楚王司馬瑋と結託して政変を起こし、楊駿を殺害しました。これにより、賈氏一族は大きく躍進し、賈謐も国政の中枢に参画するようになります。賈謐は郭彰と共に権勢を強め、多くの賓客が彼のもとに集まるようになりました。

この頃、賈謐は士大夫との交流を深め、「金谷二十四友」と呼ばれる文学集団を形成しました。この集団には、陸機や左思、劉琨といった著名な文化人も含まれていました。

元康元年（291年）6月、賈南風は国政を掌握していた汝南王司馬亮と録尚書事の衛瓘を排除するため、楚王司馬瑋に密詔を与えて彼らを殺害させました。司馬瑋配下の岐盛は、この機に乗じて賈謐と郭彰を誅殺し、権力を掌握するよう司馬瑋に進言しましたが、司馬瑋はこれに応じませんでした。賈南風もまた、司馬瑋が権勢を握ることを危惧し、司馬瑋が独断で詔書を偽造して司馬亮と衛瓘を殺害したと宣言し、司馬瑋を捕らえて処刑しました。

権勢の絶頂と皇太子との対立

こうして賈謐は、賈南風ら一族と共に天下をほしいままにするようになり、多くの近臣が重職に就くようになりました。賈謐は賈南風と協議の上、張華を侍中・中書監に、裴頠を侍中に、賈模を散騎常侍・侍中に、安南将軍の裴楷を中書令・侍中に任じ、右僕射の王戎と共に政務を補佐させました。張華や裴頠らは賢臣であったため、共に力を合わせて国政を安定させることに成功しました。この頃から、賈謐の権限は皇帝をも凌ぐようになり、独断で黄門侍郎を処罰できるほどでした。賈南風を後ろ盾に贅沢を極め、臣下の身分を越えた豪華な屋敷に住み、最高の歌童や舞女を集めて邸宅で宴会を催し、多くの人々が集まりました。後に権力を掌握する趙王司馬倫も、当時は賈謐に取り入ることで賈南風からの信任を得ていました。

しかし、元康9年（299年）頃から、賈謐は皇太子である司馬遹への無礼な振る舞いが目立つようになり、司馬遹との関係が悪化します。賈謐は司馬遹と囲碁の対局をする際にも言い争いを繰り返し、一切遠慮がありませんでした。これを見た成都王司馬穎は、賈謐の態度を激しく叱責しました。賈謐はこれを恐れ、賈南風に相談した結果、司馬穎は平北将軍に任じられ、鄴城の鎮守を命じられて朝廷から追放されました。また、司馬遹は名族である王氏の娘との結婚を望んでいましたが、賈謐が先に王氏の娘を娶ったため、司馬遹は賈謐への不満をさらに募らせました。

賈謐は賈南風に讒言し、司馬遹が賈氏に対抗しようとしていると告げました。これにより、賈南風は司馬遹を廃嫡することを決意し、司馬遹に罪を着せて庶民に落とし、金墉城に監禁しました。

最期

永康元年（300年）3月、司馬倫は賈南風を廃し、皇太子の復位を目論み、クーデターを計画します。司馬倫は賈南風に司馬遹を殺害させ、その復讐を名目に挙兵し、賈南風一派を討伐しました。賈謐は異変に気づき逃亡を試みましたが、兵士に捕らえられ、殺害されました。賈南風も廃され、賈氏一族は処刑されました。

なお、「金谷二十四友」は石崇や杜斌らが司馬倫に恨まれて殺害されたものの、陸機のように司馬倫側に就いた者もおり、処罰の対象とはなりませんでした。

逸話

晩年、賈謐の家には数多くの妖異現象が起こったと伝えられています。旋風が吹いて賈謐の朝服が数百丈も飛ばされたり、朝服の中から蛇が出てきたり、夜には暴雷が賈充の屋敷を襲い、柱が折れて床帳が壊れたりといった怪異に見舞われ、賈謐は大いに恐れたといいます。

脚注

参考文献

『晋書』巻31 列伝第1、巻40 列伝10
『資治通鑑』巻79 - 巻83

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