吉士磐金

吉士磐金（きし の いわかね）について

吉士磐金は、飛鳥時代に活躍した豪族であり、外交官としての側面を持つ人物です。生没年は不明ですが、当時の国際関係において重要な役割を果たしました。彼の出自や経歴、そして関わった出来事について詳しく見ていきましょう。

出自

「吉士」という姓は、古代朝鮮における首長や族長を意味する言葉に由来する敬称であり、それが転じて姓や氏になったとされています。さらに遡ると、中国周人の出自を持つとされています。吉士氏には、難波吉士、三宅吉士、草香部吉士などの系統があり、その本拠地は摂津国嶋下郡吉志部村（現在の大阪府吹田市岸部町）にありました。

『新撰姓[[氏録]]』によると、吉士氏は「難波忌寸同祖，大彦命之後也」と記されており、外交事務で活躍した一族であったことが伺えます。吉士磐金もその一員として、国際的な舞台で活躍しました。

新羅への派遣（推古5年）

吉士磐金の名前が初めて歴史に登場するのは、『日本書紀』によれば、推古天皇5年（598年）11月の新羅への派遣です。この派遣は、591年に任那復興のために筑紫に派遣された軍を呼び戻したことに関連していると考えられます。翌年の599年4月には、新羅から帰国し、鵲（かささぎ）を献上しました。この鵲は難波社で飼育され、繁殖したと伝えられています。この時期、新羅や百済から珍しい動物が献上されており、当時の国際交流の一端が窺えます。例えば、新羅は孔雀を、百済は駱駝や驢馬などを献上しています。これらの動物は、隋によってもたらされた可能性が高いとされています。

新羅への派遣（推古31年）

約20年後の推古天皇31年（623年）7月、新羅が任那を攻撃し服属させたことを受け、大和政権は半島への派兵を検討しました。しかし、慎重論が優勢となり、吉士磐金は一族の吉士倉下と共に、問責使として新羅・任那両国へ派遣されることになりました。磐金は新羅担当、倉下は任那担当でした。

新羅に到着した際、磐金は出迎えの船に任那側の船がないことを指摘し、新羅側が任那用の船を追加するという一幕もありました。新羅王は8人の大夫を派遣し、新羅国内の事情を磐金に伝えました。そして、新羅は奈末智洗遅を、任那は達奈良末遅を磐金と倉下に同行させました。しかし、磐金らが帰国する前に、大和政権は境部雄摩侶と中臣国子を大将軍とする征新羅軍を派遣してしまいます。この動きに両国の使者は衝撃を受け、任那の調の使者を立てて逃げ帰ってしまいました。磐金は、軍を起こすことは先の約束に反すると考え、倉下と今後の対応を協議しました。

同年11月、磐金らは帰国し、この状況を蘇我馬子に詳しく報告しました。馬子は、「任那のことは、もはやどうにもならない」と述べたと伝えられています。この軍事行動は、大和政権内部の対立を露わにするものであり、その後の新羅との関係にも大きな影響を与えました。

百済弔使の訪問（皇極元年）

それから19年後、舒明天皇が崩御し、皇極天皇が即位した皇極元年（642年）には、草壁吉士磐金という人物が登場します。百済から帰国したばかりの阿曇連比羅夫が、百済が弔使を派遣してきたことを報告し、百済国内で内紛が起きていることを伝えました。これを受け、比羅夫と草壁吉士磐金、倭漢書直県が百済の弔使のもとへ派遣され、義慈王即位後の百済国内の様子を尋ねさせました。

この草壁吉士磐金は、吉士磐金と同一人物ではないかという説もあります。しかし、同一人物だとするとかなりの高齢になるため、別人である可能性も指摘されています。

まとめ

吉士磐金は、飛鳥時代の国際関係において重要な役割を果たした人物です。新羅との外交交渉や任那問題への対応、百済の弔問使への対応など、様々な場面で活躍しました。彼の活動は、当時の国際情勢や大和政権の外交政策を理解する上で重要な手がかりとなります。また、吉士氏という外交に長けた一族の一員として、その能力を発揮した人物であったと言えるでしょう。

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