大彦命

大彦命（おおひこのみこと）

大彦命は、生没年不詳の古代日本の皇族です。

概要

出自: 第8代孝元天皇の第一皇子。
母: 皇后の欝色謎命（うつしこめのみこと）。
后妃: 御間城姫（みまきひめ：第10代崇神天皇皇后）、武渟川別（たけぬなかわわけ）らの父。
外祖父: 第11代垂仁天皇の外祖父。
祖: 阿倍臣（阿倍氏）を始めとする多くの氏族の祖。
四道将軍: 四道将軍の一人として北陸に派遣されたと伝えられる。
表記: 『日本書紀』では「大彦命」、『古事記』では「大毘古命」と表記。
比定: 稲荷山古墳出土鉄剣の銘文に見える「意富比垝（おほひこ）」に比定する説がある。

系譜

孝元天皇と欝色謎命の間に生まれた第一皇子。

同母兄弟: 開化天皇（第9代）、少彦男心命、倭迹迹姫命。
子: 御間城姫（崇神天皇皇后）、武渟川別、比古伊那許志別命。

記録

文献

『日本書紀』:
崇神天皇10年、北陸に派遣されたことが記されている。
東海に派遣された武渟川別、西道に派遣された吉備津彦命、丹波に派遣された丹波道主命とともに「四道将軍」と称される。
和珥坂で不吉な歌を詠う少女に会ったため、引き返して天皇に報告。その後、倭迹迹日百襲媛命の占いにより、武埴安彦命の謀反が発覚し、鎮圧に貢献した。
崇神天皇10年10月22日に出発し、11年4月28日に平定を報告。
『古事記』:
武埴安彦命の鎮圧に関する説話は日本書紀と同様。
四道将軍としての派遣ではないが、高志道に派遣されたとされる。
建沼河別命は東方十二道に派遣。
大毘古命と建沼河別命が出会った地が「相津」（現・福島県会津）と名付けられたという地名起源説話。
『新撰姓氏録』:
河内国皇別難波忌寸条に、大彦命が蝦夷平定に向かった際、兎田墨坂で嬰児を拾って育て「得彦宿禰」と名付けたと記されている。

伝承

葛木坐火雷神社に伝わる旧記によると、武埴安彦命討伐の際、天火明命の末裔の笛吹連櫂子を率いたとされる。

考古資料

稲荷山古墳出土鉄剣：銘文に見える「意富比垝」を大彦命に比定する説がある。

後裔

人物

子:
武渟川別 - 四道将軍の一人、東海に派遣。
御間城姫 - 崇神天皇皇后、垂仁天皇生母。
比古伊那許志別命 - 膳臣の祖。
波多武彦命？
紐結命
孫:
磐鹿六雁命
彦屋主田心命
波多武彦命？
五世孫: 田道命
八世孫: 稚子臣

氏族

『日本書紀』: 阿倍臣、膳臣、阿閉臣、狭狭城山君、筑紫国造、越国造、伊賀臣ら7氏の始祖。
『古事記』: 建沼河別命（武渟川別）を阿倍臣等の祖、比古伊那許志別命を膳臣の祖とする。
『新撰姓氏録』: 多くの氏族が後裔として記載されている。

信仰

古四王神社（秋田県秋田市）: 北陸地方に分布する大彦命を祀る神社。
伊佐須美神社（福島県大沼郡会津美里町）: 会津での大彦命と武渟川別との出会いに起源。
鵜坂神社（富山県富山市）
舟津神社（福井県鯖江市）
敢國神社（三重県伊賀市）: 阿倍氏族の阿閉臣の分布地、御墓山古墳は大彦命の御陵と伝えられる。
布勢神社（香川県さぬき市）

考証

稲荷山古墳出土鉄剣の「意富比垝」を大彦命とする説は有力。
乎獲居臣を阿倍氏や膳氏の一族とする解釈が多いが、壬生吉士（難波吉士と同族）の可能性も指摘される。
当時の著名な大彦命の東征説話をもとに、乎獲居臣がその祖を大彦命に求めた可能性も指摘されている。
ヲワケを東国国造の系譜に属する者と見る説と、大彦命を上祖とする中央豪族の一員と見る説に分かれている。

参考文献

上田正昭「大彦命」『国史大辞典』吉川弘文館。
「大彦命」『日本古代氏族人名辞典 普及版』吉川弘文館、2010年。
宝賀寿男『阿倍氏 四道将軍の後裔たち』青垣出版、2013年。

関連項目

* 四道将軍

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