吉川五明

吉川五明：秋田蕉風俳諧の祖、その生涯と俳句

吉川五明（きっかわ ごめい、享保16年（1731年）〜享和3年10月26日（1803年12月9日））は、江戸時代中期に活躍した俳人であり、「奥羽四天王」の一人としてその名を全国に轟かせました。現在の秋田県秋田市にあたる出羽国久保田藩の城下町で生まれ、秋田蕉風俳諧の祖として、俳諧の世界に大きな足跡を残しました。

生い立ちと俳諧との出会い

五明は、豪商である那波三郎右衛門裕祥の五男として生まれました。幼名は伊五郎と名付けられ、後に庄九郎、宗七郎と改名。本名は兄之（しげゆき）、のちに裕之と称しました。幼少の頃から父親の影響で俳諧に親しみ、美濃派や与謝蕪村の俳句を学びました。18歳で同じ町内の商人、吉川惣右衛門吉品の養子となり、家業である茶紙業を継ぎました。

蕉風俳諧への傾倒と「五明」の誕生

23歳頃から蕉風俳諧を志すようになり、宝暦12年（1762年）から「五明」の俳号を用いるようになりました。この俳号は、久保田藩主佐竹氏の家紋である「扇に月」に由来すると言われています。明和年間（1764年〜1772年）以降、俳人としての名声が広まりました。

隠居後の活動と門弟の育成

天明2年（1782年）、52歳で隠居し、家督を子息に譲ると、川尻村上野（現在の秋田市）に小夜庵を結び、隠遁生活に入ります。しかし、隠居後も俳諧への情熱は衰えることなく、各地の著名な俳人たちと交流を深めました。また、数百名に及ぶ門弟を育成し、秋田における俳諧文化の発展に大きく貢献しました。

奥羽四天王としての評価

五明は、仙台藩白石の岩間乙二、庄内藩酒田の常世田長翠、南部藩盛岡の小野素郷とともに「奥羽四天王」と称され、その名は全国に知られました。北国の風土をうたいこめた句に優れており、その作品は多くの人々に愛されています。

代表的な句

五明の句には、北国の自然や生活を豊かに表現したものが多くあります。

降る中へ 降りこむ音や 小夜しぐれ
流れきて 氷を砕く 氷哉
濡れ雪の まぶたに重し 戻り馬

子孫への影響

五明の俳諧の精神は、子である春朝、孫の宣大へと受け継がれ、彼らもまた俳人として知られています。吉川五明は、秋田の俳諧史における重要な人物として、その名が深く刻まれています。

参考文献

井上隆明「吉川五明」『秋田大百科事典』秋田魁新報社、1981年9月。ISBN 4-87020-007-4。
加藤定彦『日本歴史人物事典』朝日新聞社、1994年11月。ISBN 4-02-340052-1。

外部リンク

『吉川五明』 - コトバンク

もう一度検索