福宝堂

合資会社福宝堂：黎明期の日本映画を彩った先駆者

合資会社福宝堂（ふくほうどう）は、1910年（明治43年）7月から1912年（大正元年）9月10日まで存在した、日本の映画会社です。創業からわずか2年余りの活動期間でしたが、日本映画史において重要な役割を果たしました。

設立の背景と事業展開

福宝堂は、実業家である田畑健造によって設立されました。当時の映画業界は黎明期であり、映画館の数は増加傾向にありましたが、警視庁による規制も存在していました。福宝堂は、この規制に着目し、複数の映画館の営業許可を取得し、売却益を得ようとしました。しかし、計画が頓挫したため、自社で映画館を経営する方針に転換しました。

東京の京橋、芝、麻布十番など、都心に「第一福宝館」から「第八福宝館」までを次々と開設し、興行会社としての基盤を築きました。興行師の小林喜三郎を営業部長に、大阪支店長には山川吉太郎を迎え、積極的な事業展開を行いました。

「ジゴマ」旋風と撮影所の設立

福宝堂の躍進を語る上で欠かせないのが、洋画『探偵奇譚ジゴマ』の大ヒットです。同作品は、フランスのヴィクトラン・ジャッセ監督によるもので、1911年（明治44年）11月に公開されると、社会現象を巻き起こすほどの人気を博しました。この成功により、福宝堂は一躍、映画業界の注目を集める存在となりました。

また、上映作品の不足を解消するため、東京府北豊島郡日暮里村（現在の荒川区西日暮里）に自社の撮影所「福宝堂日暮里花見寺撮影所」を建設しました。ここでは、多くの映画が粗製濫造されたものの、興行に強く、資金には事欠かなかったとされています。

日活への統合とその後

福宝堂は、1912年（大正元年）9月10日に、横田商会、吉沢商店、M・パテー商会との合併により、日本活動写真株式会社（日活）を設立しました。これにより、福宝堂の歴史は幕を閉じましたが、同社の直営館は日活に引き継がれ、その後の映画興行を支える重要な役割を果たしました。

福宝堂の設立メンバーである小林喜三郎と山川吉太郎は、日活の方針に反発し、退社後、天然色活動写真（天活）の設立に貢献しました。彼らの離脱は、日活の内部抗争の火種となり、その後の映画業界に大きな影響を与えることになりました。

福宝堂の作品と現在

福宝堂は、設立からわずか2年足らずの間でしたが、『明烏夢の泡雪』、『金色夜叉』、『伊勢音頭恋の寝刃』などの多くの作品を製作しました。また、『探偵奇譚ジゴマ』をはじめとする洋画の輸入も手がけ、当時の観客を魅了しました。しかし、現在、東京国立近代美術館フィルムセンターは、同社の作品の上映用プリントを所蔵していません。

福宝堂の直営劇場

福宝堂は、以下の直営劇場を運営していました。

第一福宝館：京橋区具足町5番地（現在の中央区京橋3丁目7番地6号、東京国立近代美術館フィルムセンター）
第二福宝館：芝区桜田本郷町（のちの芝田村町1丁目、現在の港区西新橋1丁目3番、同区新橋1丁目8番あたり）
第三福宝館：麻布区新網町（現在の港区麻布十番）
第四福宝館：四谷区荒木町（現在の新宿区荒木町）
第五福宝館：本郷区春木町（現在の文京区本郷）
第六福宝館：下谷区竹町（現在の台東区台東3丁目）
第七福宝館：日本橋区吉川町（現在の中央区東日本橋）
第八福宝館：本所区若宮町（現在の江東区本所2丁目）

これらの劇場は、当時の映画ファンにとって、娯楽の中心地でした。

まとめ

合資会社福宝堂は、短期間の活動ではありましたが、日本映画史において重要な足跡を残しました。『探偵奇譚ジゴマ』の大ヒットや、日活の前身企業の一つとして、その名は語り継がれています。福宝堂の歴史は、日本の映画黎明期における熱気と創造性を象徴するものであり、後世に大きな影響を与えました。

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