名古屋火力発電所

名古屋火力発電所の歴史

名古屋火力発電所は、1925年（大正14年）から1964年（昭和39年）にかけて、現在の名古屋市港区大江町に存在した火力発電所です。その歴史は、戦前期の大手電力会社であった東邦電力によって始まり、日本の電力供給体制の変遷と共に、その役割を変えながらも重要な役割を果たしました。

建設の背景

1920年代初頭の名古屋地区は、紡績や毛織などの軽工業が急速に発展し、電力需要が急増していました。当時、電力を供給していた東邦電力は、主に水力発電に依存していたため、冬季の渇水期には電力供給が不足する課題を抱えていました。木曽川や長良川の発電所からの電力供給に加え、大同電力からの受電も行っていましたが、水力発電はその特性上、天候に左右されるため、安定的な電力供給のためには火力発電所の増強が不可欠でした。

当初、名古屋電灯は名古屋港に火力発電所を建設する計画を立てましたが、大同電力の都合により機械が転用され、計画は一時白紙となりました。しかし、東邦電力に改組後、副社長の松永安左エ門の主導により、名古屋地区の電力需要を大幅に上回る大規模火力発電所の建設が決定しました。建設地は、名古屋電灯時代の計画と同じく大江町が選ばれ、1924年（大正13年）に名古屋火力建設所が設置され、建設工事が開始されました。

1・2号機の設置

名古屋火力発電所の建設は、2段階に分けて進められました。まず、1925年（大正14年）10月に第1期工事が完了し、翌1926年（大正15年）12月には第2期工事が完了しました。この第1期工事で、ボイラー4基と2号タービン発電機、1号所内用タービン発電機が設置され、第2期工事では1号タービン発電機が設置されました。当時、1台あたりのタービン発電機の容量が3万5000キロワットというのは、日本国内では前例のない大規模なものであり、その発電機の製造はアメリカのゼネラル・エレクトリック社が担当し、その注文自体がニューヨークタイムズでも報道されたほどでした。

初期の段階では、水力発電との併用を前提としたため、渇水期の補給用として運用され、常にフル稼働していたわけではありませんでした。そのため、建設費の圧縮が図られ、放水路を浅くしたり、石炭の揚陸設備を簡素化するなどの工夫がなされていました。しかし、送電の安定性の確保は最重要事項であり、補助機の二重化や、発電所内部の重要機器を独立電源で運転するための所内用タービン発電機設置など、重点的に投資が行われました。

3号機の設置

1930年代に入り、景気が好転し電力需要がさらに増加すると、東邦電力は名古屋火力発電所の増設を計画しました。第3期工事は1934年（昭和9年）から始まり、5号ボイラーの設置を皮切りに、6・7号ボイラーと3号タービン発電機も増設され、翌年には8号ボイラーと2号所内用タービン発電機が完成しました。3号タービン発電機は、当時国内メーカーでは納期や価格の面で条件を満たせなかったため、ドイツのAEG社製が採用されました。また、この工事中に既設の1号・2号タービン発電機を調相機としても使用できるように改造され、発電所の柔軟性が向上しました。

4号機の設置

1936年（昭和11年）には、さらなる需要増加に対応するため、4号タービン発電機の増設が決定され、翌1937年（昭和12年）に完成しました。この4号機は、三菱重工業製であり、技術力の向上により国産メーカーでの製造が可能になりました。この4号機の増設をもって、名古屋火力発電所の拡張工事は終了しました。その後は、中部共同火力発電名港火力発電所の建設により、需要増に対応することになりました。

日本発送電から中部電力へ

日中戦争下で電力国家管理政策が進められると、名古屋火力発電所は1939年（昭和14年）に日本発送電へと現物出資され、国有化されました。太平洋戦争中には空襲や地震による被害を受け、一時発電を停止せざるを得ませんでしたが、戦後1948年（昭和23年）に復旧工事が完了しました。その後、1951年（昭和26年）の電気事業再編成により中部電力に譲渡されました。

戦後の電力需要の急増を受け、中部電力は火力発電所の増強に着手しました。名古屋火力発電所では、老朽化や石炭の質の低下により発電能力が低下していたため、ボイラーの改造工事が行われました。まず、5〜8号ボイラーが石炭・重油混焼に改造され、その後、1〜4号ボイラーが重油専焼に改造されました。これにより、発電所の出力は14万キロワットまで引き上げられました。

廃止とガスタービン発電所建設

1950年代後半から1960年代にかけて、三重[[火力発電所]]や新名古屋火力発電所など、より大型の火力発電所が次々と建設され、名古屋火力発電所は老朽化が進んでいました。1960年から1962年にかけては、年間発電量が4億キロ[[ワット時]]を超える状態が続きましたが、1963年（昭和38年）に一部の設備が休止され、翌1964年（昭和39年）に正式に廃止されました。

廃止後、名古屋火力発電所の設備の一部を転用して、尖頭負荷発電所を建設する計画が立てられました。この計画では、旧発電所の蒸気タービンではなくガスタービンエンジンを使用し、1967年（昭和42年）に「名火発電所」として運転を開始しました。名火発電所は、1985年（昭和60年）に廃止されるまで、地域への電力供給に貢献しました。

年表

1924年（大正13年）4月1日 - 東邦電力社内に名古屋火力建設所設置。
1924年（大正13年）6月2日 - 名古屋火力発電所着工。
1925年（大正14年）10月16日 - 第1期工事竣工、1-4号ボイラーおよび2号タービン発電機設置。
1926年（大正15年）12月6日 - 第2期工事竣工、1号タービン発電機設置。
1935年（昭和10年）6月28日 - 第3期工事一部竣工、5号ボイラー設置。
1935年（昭和10年）12月31日 - 第3期工事大部分竣工、6・7号ボイラーおよび3号タービン発電機設置。
1936年（昭和11年）2月3日 - 第3期工事全面竣工、8号ボイラー・2号所内用タービン発電機設置。
1937年（昭和12年）12月1日 - 第4期工事竣工、4号タービン発電機設置。
1939年（昭和14年）4月1日 - 東邦電力から日本発送電へ出資。
1951年（昭和26年）5月1日 - 中部電力が継承。
1952年（昭和27年）12月 - ボイラー4缶（5-8号）を石炭専焼から石炭・重油混焼に改造。
1954年（昭和29年）8月11日 - 3・4号ボイラーを重油専焼に改造。
1954年（昭和29年）10月16日 - 1・2号ボイラーを重油専焼に改造。
1956年（昭和31年）12月21日 - 1号所内用タービン発電機廃止。
1963年（昭和38年）3月31日 - ボイラー4缶（5-8号）と3・4号タービン発電機、2号所内用タービン発電機を休止。
1964年（昭和39年）4月1日 - 名古屋火力発電所廃止。
1967年（昭和42年）5月29日 - 跡地にガスタービン発電所「名火発電所」が運転開始。
1985年（昭和60年）6月18日 - 名火発電所廃止。

設備構成

名古屋火力発電所

1953年（昭和28年）3月末時点での設備概要は以下の通りです。

1 - 4号ボイラー
形式：CTM型
汽圧：24.6キログラム毎平方センチメートル
汽温：390度
蒸発量：最大86トン毎時
製造者：バブコック・アンド・ウィルコックス
5 - 8号ボイラー
形式：CTM型
汽圧：24.6キログラム毎平方センチメートル
汽温：390度
蒸発量：最大90トン毎時（重油専焼化で110トン毎時へ増強）
製造者：バブコック・アンド・ウィルコックス
1号タービン発電機
タービン形式：復水式
タービン容量：35,000キロワット
発電機容量：43,750キロボルトアンペア
製造者：ゼネラル・エレクトリック
2号タービン発電機
タービン形式：復水式
タービン容量：35,000キロワット
発電機容量：43,750キロボルトアンペア
製造者：ゼネラル・エレクトリック
3号タービン発電機
タービン形式：復水式
タービン容量：35,000キロワット
発電機容量：43,750キロボルトアンペア
製造者：AEG
4号タービン発電機
タービン形式：復水式
タービン容量：35,000キロワット
発電機容量：43,750キロボルトアンペア
製造者：三菱重工業、三菱電機
1号所内用タービン発電機
タービン形式：復水式
タービン容量：1,000キロワット
発電機容量：1,250キロボルトアンペア
製造者：ゼネラル・エレクトリック
2号所内用タービン発電機
タービン形式：復水式
タービン容量：3,000キロワット
発電機容量：3,750キロボルトアンペア
製造者：AEG

名火ガスタービン発電所

名火ガスタービン発電所時代の主要設備は以下の通りです。

ガスタービンエンジン
形式：1軸オープンサイクルガスタービン
出力：30,000キロワット
燃料：ナフサ、灯油、重油、原油
製造者：三菱重工業
発電機
形式：同期発電機
容量：35,000キロボルトアンペア
製造者：三菱電機

関連項目

東邦電力の発電所一覧（例）

外部リンク

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