向島区

向島区：東京の消えた区の歴史

向島区は、1932年（昭和7年）から1947年（昭和22年）までの約15年間、東京市（後の東京都）に存在した区です。現在の墨田区北部に位置していました。35区制時代の区の一つとして、その歴史的背景や地理的特徴、そして著名な出身者などを紐解くことで、現代の墨田区を理解する上で重要な役割を担う、忘れられた区の姿が見えてきます。

設立と消滅

1932年10月1日、南葛飾郡の区域を編入する形で、東京市に向島区が誕生しました。当初は「寺島区」という案もあったとされています。寺島町、隅田町、吾嬬町の地域が向島区に編入された一方、「向島○○町」と名付けられていた地域の一部は、本所区に属することになりました。その後、1943年7月1日には東京都制施行に伴い、東京市と東京府が廃止され、東京都が設置されます。そして、1947年3月15日、東京都の区の数が35から22に削減される区制変更により、向島区は本所区と合併し、墨田区として新たなスタートを切ることになります。

向島区役所のその後

旧向島区役所庁舎は、墨田区発足後も区役所第二庁舎として活用されました。当時、横網にあった第一庁舎の分庁舎という位置づけでした。その後、1994年には建て替えられ、すみだ生涯学習センター「ユートリヤ」となり、現在も墨田区役所東向島出張所が併設されています。この建物は、向島区の歴史と、墨田区の行政運営の変遷を象徴する存在と言えるでしょう。

交通網

向島区には、東武鉄道伊勢崎線、亀戸線、京成電鉄押上線、白鬚線（現・廃線）などの鉄道が走っていました。東武鉄道の駅としては、請地駅、曳舟駅、玉ノ井駅（現・東向島駅）、鐘ヶ淵駅、そして亀戸線では虎橋通駅、十間橋通駅、天神駅、小村井駅、平井街道駅（現・東あずま駅）などが存在していました。京成電鉄の駅も、京成請地駅、京成曳舟駅、向島駅、荒川駅（現・八広駅）など、現在とは異なる名称や位置づけで運行していました。さらに、東京都電車向島線も存在していましたが、現在は廃線となっています。道路網としては、水戸街道が主要な道路として機能していました。これらの交通網は、当時の向島区における生活や経済活動を支える重要なインフラであったと考えられます。

著名な出身者

向島区、および旧南葛飾郡出身の著名人には、林学者で陸軍軍人、政治家、教育者、神職でもあった徳川宗敬氏、経済小説を得意とした小説家である清水一行氏、小説家・随筆家の幸田文氏、胡桃沢耕史氏、半藤一利氏らがいます。その他にも、著述家の荻生待也氏、映画監督の山根成之氏、作曲家の遠藤実氏、落語家の3代目三遊亭圓歌氏、女優の木の実ナナ氏、テレビ司会者で元NHKアナウンサーの小川宏氏、力士で元関脇の出羽錦忠雄氏など、多様な分野で活躍した人材を輩出しています。これらの著名な出身者たちの活躍は、向島区が文化や社会に貢献した証左と言えるでしょう。

まとめ

向島区は、現代の墨田区の一部を形成した、歴史的に重要な区でした。その歴史、交通、そして著名な出身者などを通して、現代の墨田区を理解する上で重要な知見が得られます。消滅した区ではありますが、その存在感は、墨田区の歴史、ひいては東京の歴史を語る上で無視できないものです。

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