吹奏楽のための序曲 (メンデルスゾーン)

吹奏楽のための序曲 ハ長調 作品24

フェリックス・メンデルスゾーン（Felix Mendelssohn Bartholdy, 1809-1847）が手掛けた「吹奏楽のための序曲 ハ長調 作品24」（Ouvertüre für Harmoniemusik in C-Dur, Op. 24）は、彼の若き日の才能を示す重要な管楽作品です。この曲は、ロマン派の作曲家による吹奏楽のための作品が比較的少ない中で、今日でも演奏される貴重なレパートリーの一つとなっています。

作曲の背景と変遷

作品の原型が生まれたのは、作曲家がわずか15歳だった1824年の夏のことです。メンデルスゾーンはこの年、父や妹と共に北ドイツのメクレンブルク＝フォアポンメルン州にあるバート・ドベラーンという保養地へ避暑に訪れました。旅先の滞在中に、彼は現地の吹奏楽団のためにこの序曲の最初の形を作曲しました。

残念ながら、この時に書かれたオリジナルの楽譜は現存していません。しかし、メンデルスゾーンは1826年に記憶を頼りにこの曲を復元しました。さらに1838年には、より充実した大規模な編成へと改訂が施され、今日知られる作品24の形となりました。

初期の1824年/1826年版は「ノクトゥルノ」（夜想曲）というタイトルが与えられ、わずか11名の奏者による小規模なアンサンブルを想定していました。しかし、最終的な1838年版では、楽器編成が大幅に拡充され、「ハルモニームジークのための序曲」として、色彩豊かなサウンドが追求されています。

楽器編成

この作品は改訂によって編成が大きく異なります。

1824年/1826年版（ノクトゥルノ）

フルート：1
オーボエ：2
クラリネット：2
ファゴット：2
ホルン：2
トランペット：1
イングリッシュ・バスホルン：1

この版は、当時の典型的なハルモニームジークの編成に近い、計11名の奏者による室内楽的な響きを特徴としています。

1838年版（序曲）

ピッコロ：1
フルート：1
オーボエ：2
クラリネット：F管2、C管2
バセットホルン：2
ファゴット：2
コントラファゴット：1
ホルン：C管2、F管2
トランペット：C管2
トロンボーン：アルト1、テノール1、バス1
イングリッシュ・バスホルン：1
* 打楽器：小太鼓、大太鼓、シンバル、トライアングル

1838年版では、管楽器が23本、加えて打楽器が加わり、音域と音色の幅が格段に広がっています。特にバセットホルンやイングリッシュ・バスホルンといった珍しい楽器が指定されている点に当時の管楽アンサンブルの多様性が見られます。現代の演奏においては、編成に合わせて一部楽器が変更される編曲も広く行われています。

楽曲構成

楽曲はハ長調で書かれ、序奏を伴うソナタ形式を採用しています。

序奏

アンダンテ、4分の3拍子。この緩やかな導入部では、主に木管楽器が中心となり、美しく、どこか憂いを帯びたような歌謡的な旋律を奏でます。静謐でありながらも豊かな表現力を持った開始楽章です。

主部

アレグロ・ヴィヴァーチェ、4分の4拍子。序奏から一転して、活気に満ちた主部が始まります。二つの対照的な主題が提示され、展開されます。推進力のあるリズムと力強いメロディーが特徴で、特にその躍動感あふれる音楽の展開は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの交響曲第7番の終楽章を彷彿とさせる側面も持ち合わせています。

この序曲は、若きメンデルスゾーンの明晰な形式感覚と、管楽器の扱いに長けた才能を示しており、その後の彼の活躍を予感させる充実した内容を持っています。

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