ハルモニームジーク

ハルモニームジークとは

ハルモニームジーク（Harmoniemusik）は、18世紀後半から19世紀前半にかけて、主にドイツ語圏の貴族階級の間で流行した管楽器合奏の形態です。この言葉は、管楽器による合奏全般を指すこともあり、オランダやベルギーでは吹奏楽を指す言葉としても使われています。また、フランス語では軍楽隊を、ドイツ語では木管五重奏を指すこともあります。

本記事では、特に1780年代から流行した、オーボエ2、クラリネット2、ホルン2、ファゴット2による八重奏編成を中心としたハルモニームジークについて詳しく解説します。

概要

ハルモニームジークは、主に食事や催事の際の伴奏音楽として演奏されました。時にはソリストとの共演も行われ、そのレパートリーは当時の人気オペラの編曲が中心でした。ヨーゼフ・トリーベンゼーによるモーツァルトのオペラ編曲や、ヴェンツェル・セドラクによるベートーヴェンの『フィデリオ』、ウェーバーの『魔弾の射手』などの編曲が知られています。また、神聖ローマ皇帝ヨーゼフ2世の楽団でオーボエ奏者であったヨハン・ヴェントは、40ものオペラをハルモニームジーク用に編曲しました。交響曲も編曲されることがあり、ベートーヴェンの交響曲第7番の編曲は、作曲者自身の手によるものとも言われています。

オリジナル作品としては、モーツァルトのセレナードK.375、K.388、K.361（グラン・パルティータ）、ベートーヴェンの八重奏曲作品103やロンディーノWoO 25、フランツ・クロンマーの「パルティータ」などが挙げられます。

ハルモニームジークの基本編成は八重奏でしたが、コントラファゴット、コントラバス、セルパンなどの低音楽器や、フルート、バセットホルン、金管楽器、打楽器などが追加されることもありました。メンデルスゾーンの『吹奏楽のための序曲』の原曲である『ノクトゥルノ』は、ハルモニームジークの標準的な編成にフルート、トランペット、イングリッシュ・バスホルンを加えた11本の管楽器のために書かれています。

ロマン派以降も、ドヴォルザーク、グノー、R・シュトラウスなどの作曲家が、ハルモニームジークの伝統を受け継いだ作品を書いています。これらの作品では、同種の管楽器をペアで含む編成が特徴的です。

歴史

ハルモニームジークの起源は、18世紀初頭のヨーロッパに存在した小規模な管楽合奏に遡ります。特にオーボエ2、ホルン2、ファゴット2による六重奏は、ハイドンがエステルハージ侯爵のために「ディヴェルティメント」や「野外音楽」として多数作曲しています。モーツァルトも、同じ編成でザルツブルク大司教コロレドのためにディヴェルティメントを作曲しました。

1782年、神聖ローマ皇帝ヨーゼフ2世はウィーンでクラリネットを加えた八重奏編成のハルモニーを組織しました。この楽団は高い演奏水準を誇り、多くの貴族が模倣して自身の楽団を編成しました。ケルン大司教選帝侯のマクシミリアン・フランツ大公や、ラウドニッツのロプコヴィッツ侯爵などがその例です。モラヴィアからの移民によって、アメリカにもハルモニーが持ち込まれました。

モーツァルトは、オペラ『ドン・ジョヴァンニ』や『コジ・ファン・トゥッテ』の中でハルモニーを模した楽節を取り入れ、当時の普及ぶりを反映させています。『ドン・ジョヴァンニ』では、当時の流行曲が複数引用されています。また、ピアノ協奏曲第24番の第2、第3楽章では、ピアノが休止して管楽器のみで演奏する部分があり、ハルモニームジークの書法が用いられています。

19世紀に入ると、ナポレオン戦争による貴族の衰退とともに、ハルモニーも衰退していきました。多くのハルモニーが解体されたり、より大きな編成の楽団に組み込まれたりしました。1835年には、シュヴァルツブルク＝ゾンダースハウゼン侯国のハルモニーが管弦楽団に改組されました。この出来事は、ハルモニーに関する記録の中でも最後期のものの一つです。ハルモニーを管楽器セクションとして含む管弦楽団の編成は、完全な二管編成の管弦楽団の普及に貢献したと考えられています。

ハルモニームジークは、その独特な編成と響きによって、当時の音楽文化に大きな影響を与えました。その歴史と音楽は、現代においても多くの人々に愛され続けています。

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