呉克烈

呉克烈（オ・グンニョル）は、1930年に中国吉林省で生まれ、朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）の軍人、政治家として活躍しました。朝鮮人民軍では大将の階級を持ち、軍事だけでなく政治の中枢にも深く関与しました。彼は、金日成主席と金正日総書記の両指導者から非常に信頼されており、特に金正日総書記とは兄弟同然の絆で結ばれていたとされます。その影響力は、金正日総書記の野望を目覚めさせた政治的師匠とも言われるほどでした。

呉克烈は、万景台革命学院と金日成総合大学を卒業後、ソ連空軍大学にも留学し軍事専門家としての知識を深めました。1964年には少将に昇進し、金策空軍大学の学部長に就任、その後も順調に昇進を重ね、1967年には中将として空軍司令官に任命されました。また、最高人民会議の代議員も務めるなど、政治的なキャリアも積んでいきました。

1970年代後半には、党中央委員会委員、副参謀長、党政治局員候補などを歴任し、1979年には総参謀長に就任。1980年には上将に昇進し、党政治局員にも選出されました。1985年には人民軍大将の称号を授与されています。しかし、1988年には総参謀長を解任され、党民間防衛部部長に転任しました。この解任は、呉克烈と金正日総書記の権勢を脅威に感じた金日成主席によるものとも言われています。

1989年には党中央委員に降格したものの、金正日総書記の取り成しで党作戦部長に就任し、その後約20年間この職を務めました。この間、呉克烈は「影の核心人物」として、偽ドル札「スーパーノート」の製造や麻薬の製造・輸出など、外貨獲得のための裏工作を指揮しました。2009年には国防委員会副委員長に就任し、引き続き外貨獲得業務を担当しました。

しかし、金正日総書記が独占的な権力を求めるようになると、呉克烈は張成沢氏と外貨獲得競争を強いられることとなり、利権をめぐって対立するようになりました。2011年の金正日総書記の死去後、金正恩体制が発足すると、呉克烈の地位は徐々に低下し、2016年の党大会では党政治局員候補から外れ、党中央委員に留まりました。最高人民会議の代議員も再選されず、国務委員会の委員にも選出されませんでした。

呉克烈は、日本人拉致問題にも関与した疑いが持たれています。2002年の日朝首脳会談で、金正日総書記は拉致実行犯として対外情報調査部の人物を挙げましたが、実際には拉致事件は労働党作戦部によるものであり、その責任者は当時の作戦部長であった呉克烈であると指摘されています。しかし、呉克烈は拉致問題について特に処分を受けることはありませんでした。呉克烈は、2023年2月9日に急性心不全で死去しました。

呉克烈は、その長きにわたるキャリアを通じて、北朝鮮の軍事・政治両面で重要な役割を果たしました。金日成・金正日両指導者からの厚い信頼を受け、外貨獲得工作など、北朝鮮体制を支える上で重要な役割を担いました。その一方で、日本人拉致問題への関与疑惑など、その功績には負の側面も存在します。彼の生涯は、北朝鮮の権力構造と、その中で暗躍した人物の姿を浮き彫りにするものです。

顕彰

1982年：金日成勲章
1992年：金日成勲章

参考文献

青山健煕『北朝鮮 悪魔の正体』光文社、2002年
清水惇『北朝鮮情報機関の全貌―独裁政権を支える巨大組織の実態』光人社、2004年

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