和弓

和弓について

和弓（わきゅう）とは、日本の弓道・弓術で使用される独特の長弓のことです。洋弓（アーチェリーの弓）とは異なり、2メートルを超える長さを持ち、弓の中央よりも下を握って使用するのが特徴です。古くは大弓（だいきゅう、おおゆみ）と呼ばれていました。

和弓の特徴

構造

和弓は、洋弓のようにパーツが分かれているのではなく、全長にわたってひと繋がりの構造をしています。標準的な長さは約221センチ[[メートル]]（七尺三寸）で、これは世界最大の弓です。弓の握り部分は、弓の中心から下部寄りにあり、これを「上長下短」と呼びます。この構造は一見バランスが悪いように見えますが、握りの位置が弓の振動の節にあたるため、手に伝わる振動が少ないという利点があります。また、上下の長さの違いを利用して、矢の飛び方を変化させる高度な技術も存在します。

黄金比

和弓の美しさの理由の一つとして、弦を張った状態で矢を番える位置で上下に分割すると、その比率が黄金比になると言われています。

射法

和弓は、左手で弓を持ち、矢は弓の右側に番えます。右手には弽（ゆがけ）という手袋をはめ、親指の根元で弦を保持し、人差し指の根元で矢を抱え込むようにして引きます。これは蒙古式と呼ばれる引き方です。弓を大きく引き下ろし、最終的に右手が右肩あたり、弦が耳の後ろに来るまで引きます。

弓返り

和弓の独特な射法として「弓返り」があります。これは、矢を放つ際に弓が反時計回りに回転する現象で、射手の技術によって180度以上回転することもあります。弓返りによって弦が矢に接触している時間が長くなり、矢がより加速されると考えられています。

馬上での使用

日本の武士は、長弓を騎乗時にも使用しましたが、これは馬上で扱いにくいため、日本以外ではあまり発展しませんでした。多くの騎馬民族は、馬上で扱いやすい短弓を使用していました。

和弓の定義

長さ

弓の全長は、弓の曲線に沿って測られます。標準の七尺三寸（約221センチ[[メートル]]）を「並寸（なみすん）」と呼び、これより長いものを「伸び寸（のびすん）」、短いものを「寸詰め（すんづめ）」と呼びます。射手の体格や矢束に合わせて適切な長さの弓を選びます。

全日本弓道連盟の規定

全日本弓道連盟では、弓の長さは221センチ[[メートル]]を基準とし、握りの位置は弓の上部から約3分の2のところにあることと定めています。また、弓に照準装置などを付けてはならないとしています。ただし、弓の多様性も尊重されており、各個の工夫や愛着も必要であるとされています。

和弓の威力

実験結果

和弓は大型で矢も長くて重いため、射程は短くなりますが、武器としての威力は高いです。実験では、同じドローウェイトの和弓とイギリスの長弓を比較した結果、矢の速度は同等でしたが、和弓の矢の方が貫通力が高いという結果が出ています。

貫通力

別の実験では、全日本弓道連盟五段の射手が放った矢が、15メートル先のブリキのバケツや木材を貫通し、鉄板にも数センチ[[メートル]]刺さるという結果が出ています。この実験に用いた弓は22キログラムで、矢の初速は60メートル毎秒程度でした。

和弓の構造

成り

和弓は、独特の曲線で構成された「成り」という形状を持っています。弦を張った状態を「張り顔」、引いた状態を「引き成り」、弦を外した状態を「裏反り」と呼びます。和弓は、下から小反り、大腰、胴、鳥打ち、姫反りと呼ばれる5つの成り場で構成されており、それぞれの反発力のバランスによって弓の性能が決まります。また、産地や弓師によっても成りに特徴があります。

入木

和弓は、弦が弓幹の右端に位置するようにわずかに右に反らされています。この状態を「入木（いりき）」と呼び、矢を真っ直ぐ飛ばすために必要です。

造り

伝統的な竹弓は、内竹、中打ち、外竹の三層構造をしており、中打ちを芯にして内竹と外竹で挟み込んだ形になっています。竹弓の反りは、接着剤を塗布した竹を重ね、藤蔓で巻き、楔を打ち込みながら撓らせて作ります。

素材

竹弓には、真竹や黄櫨（ハゼノキ）がよく使われます。真竹は、節間や曲がりなどの条件を満たしたものが選ばれ、乾燥させた後に火で炙って油分を拭き取ります。黄櫨は、堅くて弾力性があるため、側木に適しています。接着剤には、伝統的には鹿皮を原料とした膠（ニカワ）が使われます。

和弓の歴史

由来

和弓が長大になった理由は明確には解明されていませんが、以下の理由が推察されています。

日本で手に入れやすい植物性の素材を使用したため、弓の全長を長くして歪みを少なくし、耐久性を高めた。
木素材の弾性率の関係で、上下の撓りのバランスを取るために、中間より下側を握るようになった。
歩兵や騎乗時の使用を考慮して、下部が邪魔にならないように中間より下を握るようになった。
弓が神器として扱われ、畏敬の念や信仰によって長大になった。

時代ごとの変遷

縄文時代：狩猟用として木製の単一素材の弓が使用されていた。
弥生時代：対人武器としても使われるようになり、長尺の弓が現れた。上長下短の構造になり、弦を掛ける部分が凸型になった。
古墳時代：ほぼ現在の長さの長弓が登場した。朝鮮半島南部（百済）との関係も指摘されている。
平安時代：複合弓が登場し、和弓と呼ばれるようになった。騎射戦闘術も発展した。
室町時代：弓胎弓（ひごゆみ）が登場し、現在の和弓の原型が完成した。
昭和時代：グラスファイバーやカーボンファイバーを使用した弓が開発され、普及した。

弓の産地

かつては全国で竹弓が生産されていましたが、化学素材製品の弓が普及するにつれて生産数は減っています。主な産地としては、京成（京都）、江戸成（江戸）、加州成（加賀）、尾州成（尾張）、紀州成（紀伊）、薩摩成（薩摩）、都城大弓（宮崎）などがあります。

和弓の各部名称

弭（はず）：弓の両端にある弦をかける部分。上を末弭（うらはず）、下を本弭（もとはず）と呼ぶ。
関板（せきいた）：弓の内側の上下端にある、内竹を挟む部分。上を上関板（うわせきいた）、下を下関板（しもせきいた）と呼ぶ。
切詰（きりつめ）：関板と内竹の境目。補強のために籐が巻かれる。
矢摺籐（やずりどう）：握りのすぐ上に巻かれる籐。矢が弓を擦らないように保護する。
握り（にぎり）：弓を握る部分。握り革が巻かれる。
弦（つる）：弓に張る紐。麻弦や合成繊維製の弦がある。

まとめ

和弓は、日本の伝統的な弓道で使用される長弓であり、その独特な形状、構造、製法は、日本の歴史と文化を色濃く反映しています。その驚くべき威力と美しさは、今日でも多くの人々を魅了しています。

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