唐人お吉 (小説)

唐人お吉

『唐人お吉』は、十一谷義三郎によって1928年に発表された小説であり、これを原作とした複数の映画作品が存在します。特に有名なのは、1930年に溝口健二が監督したサイレント映画と、1937年に池田富保が監督したトーキーリメイク版です。本項では、これらの作品を中心に、『唐人お吉』の物語がどのように展開していったのかを詳しく解説します。

成立の背景

『唐人お吉』の物語は、実在の人物である斎藤きちをモデルとしています。斎藤きちを題材とした最初の作品は、1927年に村松春水が発表した『実話唐人お吉』です。この作品の版権を買い取った小説家・十一谷義三郎が、1928年に小説『唐人お吉』を発表しました。この小説は、1929年から1930年にかけて東京朝日新聞に連載され、1929年には単行本としても刊行されました。

1930年版 映画『唐人お吉』

1930年には、小説『唐人お吉』を原作とした映画が二つ制作されました。一つは、日活太秦撮影所が製作し、溝口健二が監督したものです。畑本秋一が脚色を担当しました。しかし、この映画は完成後、東京の河合映画製作社（のちの大都映画）が、村松春水の『実話唐人お吉』を原作とした映画を早撮りし、先行して公開しました。この河合映画版は、八尋不二が脚色、村越章二郎が監督しました。

溝口健二監督版は、サイレント映画として制作されましたが、残念ながら大部分は散逸しており、現存するのは4分のフィルム断片のみです。この断片は、溝口健二監督の別の作品『折鶴お千』（1935年）と共にDVDに収録され、2007年にリリースされました。

主要スタッフ・キャスト（1930年版）

監督: 溝口健二
原作: 十一谷義三郎
脚色: 畑本秋一
撮影: 横田達之、伊佐山三郎
キャスト: 山本嘉一、梅村蓉子、島耕二、滝花久子/佐久間妙子、一木札二、菅井一郎、浦辺粂子など

1937年版 映画『唐人お吉 黒船情話』

1937年には、日活京都撮影所（旧・日活太秦撮影所）が、溝口健二版をトーキーとしてリメイクしました。池田富保が監督を務め、滝川紅葉が脚色を担当しました。この作品は『唐人お吉 黒船情話』というタイトルで公開されました。しかし、残念ながらこの作品のフィルムも散逸しており、現在鑑賞することはできません。

主要スタッフ・キャスト（1937年版）

監督: 池田富保
原作: 十一谷義三郎
脚色: 滝川紅葉
撮影: 谷本精史
キャスト: 花井蘭子、尾上菊太郎、高木永二、井上ジョン、鬼頭善一郎、若松文男など

その他の映画作品

十一谷義三郎の小説を原作とした映画以外にも、村越章二郎監督版を含め、「唐人お吉」をテーマにした映画は合計7作品存在します。これらの作品は、それぞれの視点から「唐人お吉」の物語を描いています。

小説『唐人お吉』について

小説『唐人お吉』は、2020年4月現在、全て絶版となっていますが、国立国会図書館の「国立国会図書館デジタルコレクション」にて閲覧・ダウンロードが可能です。青空文庫には収録されていません。

ビブリオグラフィ

小説『唐人お吉』に関連する主な書籍は以下の通りです。

『唐人お吉』、万里閣書房、1929年
『時の敗者唐人お吉』、新潮社、1930年
『時の敗者唐人お吉 続篇』、新潮社、1930年
『唐人お吉』、改造文庫 第2部 第207篇、改造社、1932年
『時の敗者唐人お吉』、改造文庫 第2部 第208篇、改造社、1932年
『唐人お吉 続』、日本小説文庫 17、春陽堂、1932年
『現代日本小説大系 第44巻』、日本近代文学研究会、河出書房、1950年
『現代日本文学全集 第79』、筑摩書房、1956年
『現代日本小説大系 第46-47巻』、日本近代文学研究会、河出書房、1956年
『現代日本文学大系 62』、筑摩書房、1973年

関連事項

唐人お吉 - 曖昧さ回避
斎藤きち - 小説・戯曲・映画のリスト
唐人お吉 (1954年の映画)

外部リンク

十一谷義三郎 - 青空文庫 （2010年2月現在『唐人お吉』未収録）
Tojin Okichi - IMDb（英語）
唐人お吉 - 日本映画データベース
Tôjin Okichi - Kurofune jôwa - IMDb（英語）
唐人お吉 黒船情話 - 日本映画データベース
* 唐人お吉 黒船情話 - KINENOTE

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