唐崎士愛

唐崎士愛：尊王の志に生きた神職

唐崎士愛（からさき ことちか）は、江戸時代中期に生きた神職であり、勤王思想家です。安芸国竹原（現在の広島県竹原市）の礒宮八幡神社の宮司を務めました。谷川士清や松岡仲良といった国学者に師事し、国学や神道を深く学びました。宝暦事件や尊号一件といった幕府の政策に反発し、山崎闇斎の垂加神道の復興と尊王思想の普及に奔走しましたが、志半ばで自刃しました。

生涯

生い立ちと学問

元文2年（1737年）に、礒宮八幡神社の宮司である唐崎信通の子として生まれました。幼い頃から山崎闇斎の垂加神道に触れ、その影響を受けて育ちます。父の死後、叔父の養子となり、谷川士清に入門して国学や神道を学びました。士清からは「士」の字を授けられ、士愛と名乗るようになります。

苦難の時代

宝暦事件や尊号一件をめぐる幕府の対応に不満を抱き、幕府を批判する上表文を提出しようとしますが、受け入れられませんでした。その後、5年間の蟄居を願い出ますが、その願書の内容を問題視され、上京を禁じられます。しかし、士愛はこれに反して上京し、松岡仲良の塾に入門します。こうした行動が幕府の怒りを買い、閉門を命じられます。その後も、朝鮮通信使との面会を求めるなど、政治的な活動を続けましたが、いずれも実現しませんでした。

神職としての活動と氏子との対立

神社の境内の立木を無断で伐採したり、御留山の石を掘り出すなど、神社の運営をめぐって氏子との対立を深めます。特に、氏子総代である角屋正三郎との対立は深刻で、角屋は士愛の所払いを求めるほどでした。しかし、年寄の吉井当聡がこの訴えを握りつぶしたため、事態は収束しませんでした。

活動の再開と闇斎顕彰の挫折

蟄居を破って上京し、女院使に会おうとしますが、失敗に終わります。その後、松岡仲良を神社に招き、神道の奥義を伝授されます。山崎闇斎の百回忌にあたり、その功績を顕彰するため、旧宅に祠堂や講堂を建設しようと計画します。しかし、資金不足や服部栗斎らの反対により、この計画は実現しませんでした。

西国遊説と最期

京都で高山彦九郎と出会い、尊王思想に共鳴します。その後、久留米藩の有馬守居邸を拠点として、九州各地を遊説し、尊王斥覇論を唱えます。高山彦九郎が自刃したことを知ると、その墓参に駆けつけました。寛政8年（1796年）、曽祖父の忌日に長生寺で切腹し、その生涯を閉じました。

明治31年（1898年）に正四位を贈位されています。

思想と活動

唐崎士愛は、山崎闇斎の垂加神道を信奉し、尊王思想を強く抱いていました。宝暦事件や尊号一件をめぐる幕府の政策を批判し、朝廷の権威を高めようとしました。その思想は、後の尊王攘夷運動に大きな影響を与えたと言われています。

墓所・史跡

忠孝岩：竹原市礒宮八幡神社境内
唐崎常陸介之墓：竹原市長生寺境内
赤齋唐﨑先生碑：礒宮八幡神社境内

著書

渾成堂門人名簿
遊学日記
遠游日録
水政記事
小泉村恵美寸谷小祠
天留月
彦文家集
* 神道秘録

唐崎士愛は、不遇な生涯を送りましたが、その思想と行動は、幕末の志士たちに大きな影響を与えました。現代においても、その名は、尊王思想家として記憶されています。

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