嘉喜門院

嘉喜門院の生涯と歌人としての業績

嘉喜門院（かきもんいん）は、南北朝時代に活躍した女性で、歌人としても名を知られています。彼女の生没年は不詳ながら、南朝の後村上天皇の妃であり、長慶天皇の母とされています。さらには後亀山天皇の母である可能性も指摘されています。1368年、後村上天皇が崩御すると、彼女は女院としての地位を授かり、間もなく落飾しました。近世の系図によると、彼女は関白近衛経忠の娘で名を勝子（かつこまたはしょうし）とされることが一般的ですが、それを裏付ける明確な史料は存在していません。ただし、関白二条師基の養子であったことはほぼ確かとされています。また、彼女は琴の名手としても知られています。

歌人としての嘉喜門院の作品

嘉喜門院の作品は、『嘉喜門院集』や『新葉和歌集』に収められており、彼女の歌風は二条派に属します。南朝の厳しい状況を反映した、哀愁に満ちた作品が多いのが特徴です。彼女は多くの人物と贈答歌を交わし、その中には自作の詩17首、長慶天皇の作品4首、そして新宣陽門院の歌1首が含まれています。

『嘉喜門院集』の編纂

『嘉喜門院集』は、彼女自身の詩を集めた私家集で、天授3年（1377年）に宗良親王が『新葉和歌集』を編纂する際に参考とされました。嘉喜門院はこの求めに応じ、自らの詩を編纂しました。この集は阿野実為により清書され、親王に提出されました。その後、親王はこの集を何度も熱心に読み、特に亡き後村上天皇を偲んで作られた長慶天皇との贈答歌を高く評価しています。

この集は大きく三つの部分に分かれています。最初の部分は「袖書」と呼ばれるもので、編纂の背景や彼女と実為との贈答歌などが含まれています。次の部分が本体で、全102首からなり、うち88首が彼女自身の歌で、残りの14首は他者の歌です。そして最後に親王の消息文及び「詠三十首和歌」という30首の歌が添えられています。

冷泉為尹の書による唯一の古写本は尊経閣文庫本で、この写本は重要な資料とされています。また、後に多くの流布本が作られましたが、それらの多くは袖書を省略しています。

系譜と出自の謎

嘉喜門院の父親については、歴史的に様々な議論があり、近衛経忠、二条師基、一条経通、そして阿野実為の4説が存在します。これらの議論は、歌集の作者である「福恩寺前関白」が彼女の近親と推測されたことが背景にあります。八代国治教授がA説に対して反論し、B説を提唱したことが、現在の通説に影響を及ぼしました。大正時代においては、二条家のB説が力を持つようになり、女院の出自の問題は依然として解決されていません。しかし、近年の研究では様々な説が議論されています。

子女と母子関係

嘉喜門院は、南朝系図によると長慶天皇、後亀山天皇の他にも、泰成親王や良子内親王を生んだとされます。彼女の母としての役割については、『嘉喜門院集』や『新葉和歌集』に見られる和歌や詞書の解釈によって推測されています。長慶と後亀山が同母兄弟であるかどうかについては、確証はないものの、近世から明治にかけての研究の中で、一時的には同母との説が強まったこともあり、その後の系図にも影響を及ぼしました。

参考文献と神社

嘉喜門院に関する研究は多く、日本の文学史において重要な存在です。また、彼女に由来する神社もいくつか存在し、大阪府の美具久留御魂神社や奈良県の天河大弁財天社などが挙げられます。それぞれ、彼女にゆかりのある品々が祀られているとされています。

このように嘉喜門院は、歌人としてだけでなく、歴史上の多くの謎を抱える女性としても注目されています。

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