四つ (日本語の表現)

四つ（よつ）

「四つ」とは、歴史的に被差別部落とされてきた人々を指す際に用いられる差別的な表現です。この言葉は、すでに明治期や大正期には使われていた記録がありますが、その正確な語源については諸説があり、確定には至っていません。

語源に関する諸説

語源候補として挙げられる主な説には、以下のようなものがあります。

「四つ足（よつあし）」に由来する説: 人間以下の動物、すなわち「畜生」を意味するという解釈。これは、被差別身分であった穢多（えた）が、農作業に使えなくなった牛馬、つまり「四つ足」動物の処理を生業としていたことから、蔑称として江戸時代から使われるようになったとする考え方です。
指の数え方に由来する説: 士農工商を小指から順に数えると、親指が穢多・非人を指す、という説。また、平民を「五」に見立てた場合、それに満たない「四」で人格的な欠損や不十分さを表すという説もあります。
身体的な特徴に由来する説: 部落外との結婚が難しく、狭い集団内での近親婚が繰り返された結果、指の欠損などの奇形が多く発生したため、という説。あるいは、権力に反抗しないよう親指を切り落とされたから、という説も唱えられています。
食習慣に由来する説: 四足動物を食する習慣があったため、という説もあります。

これらの説はいずれも推測の域を出ず、確定的な証拠はありません。

差別的なジェスチャーと自主規制

「四つ」という言葉は、単なる言葉だけでなく、指を4本立てるジェスチャーを伴うこともあります。これは、特定の人々を指差しながら「あいつはこれだ」といった意味合いで、その人物が部落出身者であると差別的に示唆する行為です。こうした行為は、差別を助長するものとして部落解放同盟などが強い抗議の対象としてきました。

このジェスチャーが問題視されたことで、メディアや企業の間で過剰な自主規制が広がる事態となりました。例えば、単に指を4本示すだけの動作（時間の「4時」や個数の「4個」など、本来差別的な意味を含まないもの）までが、差別表現と誤解されることを恐れて避けられるようになりました。

四本指のキャラクターをめぐる状況

古い漫画やアニメのキャラクターには、意図的な差別表現ではなく、単に描写上の都合（動きが自然に見える、作画コスト削減など）から指が4本で描かれているものが多く存在します。ディズニーのミッキーマウスをはじめ、多くの有名なキャラクターが元々4本指でした。

しかし、1970年代中頃から80年代にかけて、差別問題への配慮から、出版社などがキャラクターの指を5本に統一するガイドラインを設ける動きが進みました。これにより、それ以前の作品と以降の作品で指の描写が異なる場合があります。
また、ヤクザが登場する作品などでは、「指詰め」によって指が4本になったキャラクターが描かれることもあり、これはまた別の文脈での4本指の表現となります。

言葉を取り巻く社会的な課題

「四つ」という言葉とその周辺で起こる出来事は、部落問題に対する社会の認識の現状を映し出しています。久米宏氏が著書でこの言葉や関連する自主規制を茶化して書いたように、誤解や不正確な情報が言葉への不必要な忌避感を増幅させ、かえって問題の本質や正しい理解を遠ざけてしまう側面があります。

デーブ・スペクター氏は、差別する側にこそ現状認識の深化と主体的な取り組みが必要だと述べ、一方で森達也氏は、啓発を担うべきメディアの認識の低さを批判しています。森氏は、カメラマンの指の動きにまでモザイクがかけられるといった、過剰で滑稽ともいえる自主規制の事例を挙げ、メディアが依然としてこのレベルにある現状を指摘しました。

「四つ」という言葉は、単に特定の集団を指す差別語であるだけでなく、それにまつわる語源の不明瞭さ、差別的なジェスチャー、過剰な自主規制、そして言葉を巡る社会的な認識の課題など、複雑な背景を持つ表現であると言えます。この言葉を巡る問題は、差別の根深さと、それに対する社会やメディアの対応の難しさを示唆しています。

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