図像資料

図像資料とは

図像資料とは、歴史を研究する上で用いられる資料のうち、絵画、デザイン、絵はがき、ポスター、写真、漫画、地図・絵図など、視覚的な情報を伝えるものの総称です。これらの資料は、文字で記録された文献資料を理解する上で大きな助けとなるだけでなく、文献資料だけでは得られない情報も多く含んでいます。そのため、現代の歴史研究において、図像資料は欠かせない存在となっています。

図像資料は、映像資料などと共に「非文字資料」と総称されることがあります。この非文字資料の研究は、神奈川大学日本常民文化研究所による「人類文化研究のための非文字資料の体系化」という研究によって大きく進展しました。この研究は2003年に文部科学省の「21世紀COEプログラム」に採択され、多くの研究成果が発表されています。

絵画

絵画資料は、近年特に注目を集めている分野です。この分野の発展に大きく貢献したのが、東京大学史料編纂所の黒田日出男氏です。彼は絵画史料論を開拓した人物として知られており、『絵巻 子どもの登場』、『謎解き 伴大納言絵巻』、『増補 姿としぐさの中世史』など、多くの著作があります。また、五味文彦氏も早くから絵画資料に着目し、『中世のことばと絵』、『絵巻で読む中世』などの著書を著しています。これらの研究者による著作は、絵画資料を用いた歴史研究の基礎となっています。その他、網野善彦、宮本常一なども絵画資料を用いた優れた研究を行っています。

西洋史においては、樺山紘一氏の『肖像画は歴史を語る』が著名です。東アジア地域では、神奈川大学日本常民文化研究所非文字資料研究センターによって『東アジア生活絵引』が集成されています。

デザイン

デザイン資料としては、柏木博氏の『肖像のなかの権力』、多川精一氏の『戦争のグラフィズム』シリーズがよく知られています。これらの著作は、デザインを通じて近代日本の社会や文化を読み解く上で重要な役割を果たしています。

絵はがき

絵はがきは、その視覚的な性質から、歴史研究における重要な資料として近年注目されています。京都大学東南アジア地域研究研究所を拠点とする「北東アジア・データベース研究会」では、「戦前期東アジア絵はがきデータベース」を公開し、非文献資料を利用するための基盤づくりを行っています。貴志俊彦氏は、絵はがきへのアプローチとして、具現性、プロパガンダ、印刷技術、虚構性の４つの視点を提示しています。

ポスター

ポスターもまた、視覚的な情報を伝える有力な歴史資料です。貴志俊彦氏は、絵はがきデータベースに続き、「満洲国ポスターデータベース」を構築しています。また、貴志氏の著書『満洲国のビジュアル・メディア』は、ポスター研究において重要な文献となっています。

写真

写真資料は、特に近代以降の歴史研究において不可欠な存在です。渋谷四郎氏の『北海道写真史』は、北海道開拓事業の様子やアイヌ民族の風俗を伝える貴重な古写真集です。また、佐野眞一氏の『宮本常一の写真に読む失われた昭和』は、民俗学者宮本常一氏が撮影した写真を通して、昭和の日本の姿を伝えています。空中写真については、国土地理院の地図・空中写真閲覧サービスで閲覧することができます。

漫画

漫画は、社会風俗や文化を反映する資料として注目されています。清水勲氏の著作は、江戸時代から明治時代にかけての漫画を研究対象とし、その歴史的価値を明らかにしています。

絵図

絵図は、集落論や歴史地理学の研究において重要な資料です。水本邦彦氏の『絵図と景観の近世』、杉森哲也氏の『描かれた近世都市』、仁木宏氏の『戦国時代、村と町のかたち』などが、絵図を用いた研究の代表的な例です。国土地理院の「古地図コレクション」では、様々な古地図を閲覧することができます。また、菅井靖雄氏の『広重の三都めぐり』、森山悦乃・松村真佐子氏の『広重の諸国六十余州旅景色』は、絵図を用いたガイドブックとして親しまれています。全国の博物館や公文書館では、様々な図録が発行されており、絵図研究に役立っています。授業実践の例として、渡辺賢二氏の『実物・絵図でまなぶ日本近現代史』があります。


図像資料は、文献資料だけでは捉えきれない歴史の一面を映し出す鏡です。これらの資料を読み解くことで、より深く歴史を理解することができます。

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