国立病院

国立病院とは

国立病院とは、かつて厚生労働省（旧厚生省）が運営していた医療機関であり、その多くは2004年以降に独立行政法人国立病院機構へと移行しました。戦後の混乱期に、旧日本軍の病院を再編する形で発足し、約半世紀にわたり日本の医療を支えてきました。ここでは、国立病院の成立から独立行政法人化までの歴史、その変遷について詳しく解説します。

成立の背景

1945年、第二次世界大戦終戦に伴い、旧日本軍が運営していた陸軍病院、海軍病院は連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）に接収されました。その後、GHQはこれらの病院を日本政府に返還するにあたり、厚生省に移管し、一般市民の医療に責任を持つよう指示しました。また、入院医療を傷痍軍人やその家族に限定しないことも求めました。

このGHQの覚書に基づき、旧軍病院は国立病院として再出発することになり、軍医などの関係者は厚生省の文官に任命されました。また、軍事保護院は国立療養所へと移行しました。

予算と財政の変遷

国立病院の運営は、当初一般会計で行われていましたが、1949年に国立病院特別会計法が成立し、特別会計へと移行しました。1968年には、国立ハンセン病療養所を除く国立療養所も特別会計に組み込まれました。しかし、2004年の独立行政法人化に伴い、これらの会計制度は廃止されました。

統廃合の歴史

国立病院・療養所は、1986年の再編成計画以降、約20年の間に大幅な統廃合が進められました。施設の約4割が削減され、地域医療から高度専門医療へと重点を移す方針が示されました。この過程では、多くの病院が閉鎖や売却を余儀なくされ、特に医療過疎地域への影響が懸念されました。

独立行政法人への移行

2004年、多くの国立病院は独立行政法人国立病院機構へと移行しました。これにより、病院経営の効率化が図られる一方、地域医療からの撤退が進み、高度先駆的医療に特化する方向性が明確化されました。この移行に対しては、地方自治体や医師会などから多くの反対意見が出されました。

国立病院機構への移行に際して、基本方針や全体計画が厚生省から発表された後、全国の自治体から反対決議が多数提出され、大きな議論を呼びました。また、厚生省の内部文書が漏洩し、「国立病院立ち枯れ作戦」として社会的な問題となりました。

前史

国立病院の前身となる医療機関は、明治時代から存在していました。鎮台病院や衛戍病院といった軍病院、傷病軍人療養所などが開設され、昭和時代には県立の結核療養所も設置されました。これらの施設が、戦後の国立病院へとつながっていきます。

1934年：廃兵院を傷兵院と改称
1936年：衛戍病院を陸軍病院と改称
1938年：厚生省設置に伴い、傷兵院を厚生省外局の傷兵保護院とする
1939年：傷病軍人療養所等の規模拡大に伴い、傷兵保護院を軍事保護院に改称
1942年：日本医療団令公布、日本医療団が結核療養所等を管理・開設
1943年：軍事保護院施設を、日本医療団へ統合
1945年：敗戦。陸・海軍省の廃止に伴い、陸軍病院、海軍病院及び傷痍軍人療養所を厚生省へ移管

年表

1947年：日本医療団施設を厚生省へ移管（国立療養所として発足）
1949年：GHQにより国立病院特別会計制度（独立採算制）が強制される。
1951年：60施設の地方移譲計画が発表されるが、全医労などの反対により10施設のみ移譲。
1958年：新国民健康保険法が成立、翌1959年に施行。
1962年：「公的病院病床規則」が成立。
1964年：第一次臨時行政調査会により移譲を推奨。国立療養所整備特別会計構想も出たが反対により頓挫。
1968年：国立病院特別会計法の適用範囲が国立療養所にも拡大。
1975年：大蔵省が民間医療保険を奨励。
1976年：大蔵省主計局が老人医療無料化を批判。
1977年：政府より医療保険制度改革14項目が発表。
1980年：老人保健医療対策本部、国民医療費適正化総合対策本部設置。
1981年：第二次臨時行政調査会の答申により、施設の整理統廃合、病床数の削減、業務の民間委託を提起。
1982年：第三次臨時行政調査会の答申により、医療機関の機能の特化を追加。
1983年：老人保健法施行。臨時行政調査会で国立病院再編。
1984年：国立病院・療養所再編成問題懇談会が発足。
1985年：厚生省が再編成・合理化の基本方針を発表。衆議院予算委員会で質問がなされる。自治事務次官から地方自治体への経営移譲の慎重な検討を求める通達。
1986年：国立病院・療養所の再編計画が公表される。地区住民や地元医師会の大反対を受ける。
1987年：老人保健法が改正。国立病院等の再編成に伴う特別措置法が成立。
1996年：国立病院・療養所の再編合理化の基本方針を改正。
1997年：行政改革会議最終報告で独立行政法人化を答申。
1998年：中央省庁等改革基本法が成立。
1999年：「国立病院・療養所の再編成計画の見直し」実施。削減対象を87施設に。
2000年：行政改革大綱が閣議決定。
2001年：厚生労働省所管となる。32施設の「対処方策」を発表。
2002年：独立行政法人国立病院機構法が成立。
2003年：秋田病院の廃止が決定。
2004年：独立行政法人国立病院機構への移行。

まとめ

国立病院は、戦後の混乱期から日本の医療を支えてきた重要な医療機関です。独立行政法人化を経て、高度専門医療を提供する役割を担うようになりましたが、その過程では多くの課題も浮き彫りになりました。国立病院の歴史を振り返ることは、日本の医療政策の変遷を理解する上で非常に重要です。

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