国重正文

国重正文：幕末から明治を駆け抜けた多才な人物

国重正文（くにしげ まさぶみ）は、1840年11月30日（天保11年10月15日）に生まれ、1901年10月27日に没した、幕末の長州藩士であり、明治時代には内務官僚、教育者、そして神職としても活躍した人物です。通称は徳次郎、篤次郎といい、漢詩や書にも秀でており、半山という号も持っていました。

生い立ちと藩士としての活動

国重正文は、長門国阿武郡萩土原（現在の山口県萩市）で、長州藩の大組士である国重三郎兵衛恒升の長男として生まれました。藩校である萩明倫館で学んだだけでなく、吉田松陰から山鹿流兵学も学んでいます。1861年には家督を継ぎ、浜崎代官に就任しました。その後も、当島代官、大組物頭御軍制総掛、山口明倫館頭人役といった要職を歴任しました。

維新期の活動と秘話

維新期における国重正文の具体的な活動は、あまり知られていません。しかし、滋賀県大津市の円満院門跡坊官西坊家には、彼が第9代当主の父であり、京都の池田屋事件から逃れた人物、また明治維新の頃には桂小五郎と行動を共にしていたという口伝が残っています。これらの情報は、『木戸孝允文書』などの資料からも裏付けられています。彼の維新期における活動は、今後の研究が期待される分野です。

明治政府での活躍

1869年、国重正文は吉田県令（現在の山口県下関北部）に就任し、明治政府に出仕しました。京都府では、少参事、権参事、参事、大書記官などを歴任し、その行政手腕を発揮しました。1883年5月には、富山県の新設に伴い富山県令に登用され、石川県からの独立運動の根拠となっていた治水や土木事業に尽力しました。また、教育にも力を注ぎ、1885年には富山県中学校（現在の富山県立富山高等学校）の開校にこぎつけました。1886年7月には地方官官制改正に伴い、富山県知事となりました。

内務省、そして神職へ

1888年10月、国重正文は内務省社寺局長に転身し、1893年6月1日に同省を依願免本官となりました。その後、國學院院長、帝室博物館理事・歴史美術工芸部長、帝国奈良博物館理事などを経て、1899年1月26日には伏見稲荷大社宮司に就任しました。彼は宮司在任中に亡くなり、享年61歳でした。墓所は京都市の黄梅院にあり、法号は正徳院殿文宗半山大居士です。

栄典と松桜閣

国重正文は、その功績により、従五位から正四位まで位階を進め、勲六等単光旭日章、勲五等瑞宝章、大日本帝国憲法発布記念章などの勲章を受章しました。また、富山県黒部市には、彼の旧私邸である「松桜閣」が現存しています。松桜閣は「北陸の銀閣」とも呼ばれ、黒部市の有形文化財に指定されています。邸宅の前に広がる日本庭園「松桜閣庭園」は、琵琶湖を模した池を中心とした美しい庭園で、黒部市の名勝となっています。

国重正文は、幕末の激動期から明治の近代化へと移り変わる時代において、行政官、教育者、神職として多岐にわたる分野で活躍しました。その生涯は、日本の近代化を支えた人物の一人として、今もなお語り継がれています。

参考資料

歴代知事編纂会編『新編日本の歴代知事』歴代知事編纂会、1991年。
秦郁彦編『日本官僚制総合事典：1868 - 2000』東京大学出版会、2001年。
日本歴史学会編『明治維新人名辞典』吉川弘文館、1981年。
安岡昭男編『幕末維新大人名事典』上巻、新人物往来社、2010年。
上田正昭他『日本人名大辞典』講談社、2001年。
「稲荷神社宮司従七位勲五等国重正文特旨ヲ以テ位一級被進ノ件」 アジア歴史資料センター Ref.A10110085700
岡部忠夫編『萩藩諸家系譜』琵琶書房、1983年。
西坊編『西坊家口伝集続々』、2015年。
* 『初代県知事 国重正文 元私邸 松桜閣（若栗・天真寺）パンフレット』NPO法人「松桜閣」保勝会

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