地獄のデビル・トラック

1986年に公開されたアメリカのホラー映画『地獄のデビル・トラック』（原題：Maximum Overdrive）は、ベストセラー作家として知られるスティーヴン・キングが、自らの短編小説を基に初めて監督・脚本を手掛けた作品である。日本ではビデオソフト化の際に『ザ・トラック』という別題も用いられた。この作品は、宇宙からの未知の影響によって地上のあらゆる機械が意思を持ち、人間に対して敵意を剥き出しにして襲いかかるという、シンプルかつ強烈なパニックを描いている。映画音楽には、キング自身が愛聴するロックバンド、AC/DC|AC_DCの楽曲が使用されており、作品のハードな雰囲気を盛り上げている。キング自身は後に本作を監督としての失敗作と認めているが、その独特の世界観とB級テイストは一部でカルト的な人気を博している。1998年には『トラックス』というタイトルでリメイクも製作された。

物語の概要

物語の始まりは1987年6月のある日。地球のすぐそばを通過する謎の彗星が放つ光線が、地上の機械に異常な影響を与える。その翌日から、世界のあらゆる機械が突如として暴走を開始する。高速道路の跳ね橋が走行中の車を巻き込みながら勝手に作動したり、街角の現金自動預け払い機（ATM）が利用者に侮辱的なメッセージを表示したり、身近な自動販売機が人を襲う凶器と化したりと、日常に溢れる機械が次々と人間に対して牙を剥き始める。特に脅威となるのは、意志を持って動き出す自動車や大型車両である。

物語の中心となるのは、アメリカ南部の田舎道沿いにあるドライブイン「ディキシー・ボーイ」と併設されたガソリンスタンドに閉じ込められた人々だ。従業員のビル・ロビンソンをはじめとする生存者たちは、外を取り囲んだ大型トラックや様々な機械の猛攻に晒されることになる。彼らは燃料補給のために店内に無際限に稼働を強要され、過酷な状況に追い込まれていく。当初は為す術もなく追い詰められる人々だったが、機械が暴走しても、アナログな道具や銃器は正常に使えることに気づき、機械たちへの反撃を試みる。こうして、ドライブインは人間と殺人機械たちの壮絶な死闘の舞台となる。

恐怖の機械たち

本作に登場する機械たちは、単なる道具ではなく、明確な意思と悪意を持って人間を狩る存在として描かれる。最も印象的なのは、グリーンのゴブリンのような不気味な顔面装飾を施した「Happy Toyz」というトレーラー。このトラックがまるでリーダーのように他の車両を率いて人間を追い詰める。他にも、様々な車種のトラックやタンクローリー、レッカー車といった大型車両が悪夢のような大群を形成する。

しかし、恐怖は大型車両に留まらない。建設現場から抜け出したロードローラーやブルドーザーは無慈悲に人間を轢き殺そうとし、軍用トラックは搭載された機関銃を無差別に乱射する。さらに、公園の芝刈り機が人を追い回したり、家庭用のラジコンが犬を殺害したり、さらには給油機が店員にガソリンを吹き付けたりと、身近にある機械までもが予測不能な脅威となる。挙句の果てには、アイスクリーム販売車が愉快な音楽を鳴らしながら、生存者を探し回る姿さえ描かれる。これらの機械たちが、それぞれ独自の手段で人間を追い詰め、殺戮していく様が、本作のパニック描写を際立たせている。

主要な登場人物

物語の中心でサバイバルを強いられるのは、ドライブインに居合わせた様々な人々である。主人公は、仮出所中の身でありながら生存者たちを率いることになる厨房担当のビル・ロビンソン（エミリオ・エステベス）。他に、欲深いドライブインのオーナー、ヒッチハイク中に巻き込まれた女性ブレット、新婚旅行中の若い夫婦、そしてドライブインの他の従業員たちや客、さらには機械に襲われる少年野球チームなどが登場する。極限状況下での彼らの行動や人間模様も、物語に織り込まれている。

評価と影響

スティーヴン・キング唯一の監督作として公開当時から注目を集めた本作だが、批評家からの評価は芳しくなく、キング自身も失敗だったと認めている。しかし、奇抜な設定、AC/DC|AC_DCのヘヴィーなサウンド、そして個性的な殺人機械たちの強烈なビジュアルは、一部のホラーファンやB級映画愛好家の間で熱狂的に受け入れられた。特に、ゴブリンの仮面をつけたリーダートラックは、今なお映画史に残るアイコニックな「悪役」機械の一つとして記憶されている。その荒削りながらも突き抜けたパニック描写は、カルト映画として根強い人気を保ち続けている要因となっている。

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