坂井直

坂井直：二・二六事件に散った青年将校

坂井直（さかい なおし）は、1910年（明治43年）に生まれ、1936年（昭和11年）に二・二六事件で処刑された日本の陸軍軍人です。最終階級は歩兵中尉。

生い立ちと軍歴

三重県三重郡桜村（現在の四日市市桜町）で、陸軍少将の父、坂井兵吉の次男として生を受けました。1932年に陸軍士官学校（第44期）を卒業後、歩兵少尉として歩兵第三聯隊に配属。1934年には歩兵中尉に昇進しています。この頃、同じ聯隊に所属していた安藤輝三大尉の国家改造思想に共鳴し、青年将校運動に身を投じることになります。

二・二六事件への参加

1936年2月26日、二・二六事件が発生。坂井は、高橋太郎少尉、麦屋清済少尉、安田優少尉らとともに襲撃部隊を率い、四谷区仲町三丁目（現在の新宿区若葉一丁目）にあった内大臣斎藤実の私邸を襲撃しました。重機関銃や軽機関銃などで武装した部隊は、斎藤邸を二手に分かれて攻撃し、警備の警察官を制圧、斎藤を殺害しました。

事件後、坂井は2月29日付で従七位を返上させられ、勲六等と昭和六年乃至九年事変従軍記章を剥奪されます。特設軍法会議では叛乱罪で死刑判決を受け、同年7月12日に銃殺刑に処されました。享年25歳。

事件の背景

事件当時、坂井は父の意向で陸軍大学校の受験準備をしていました。事件発生後、妻の父が上司から事態を問われた際、「うちの婿は陸大受験の勉強をしていました」と答えたという逸話も残っています。これは、事件参加者の一部が陸軍大学校への進学を嫌っていたこととは対照的です。

事件直前の2月9日には、諏訪神社で結婚式を挙げました。妻は陸軍航空兵中佐である平田辰男の長女でした。しかし、結婚からわずか二週間後、坂井は事件に加担。週番勤務で連隊に駐在していたため、妻との生活は短いものでした。墓所は四日市市桜町にあります。

死後

妻とは婚姻届が未提出だったため、法的には夫婦として認められないまま坂井は刑死しました。妻は実家に戻り、その後、陸軍少佐の浦香治と再婚しましたが、浦もビルマ戦線で戦死するという悲劇に見舞われています。

坂井直を演じた俳優たち

坂井直は、二・二六事件を題材とした映画で何度か描かれています。

『叛乱』（1954年）：竹中弘道
『銃殺』（1964年）：高城裕二（役名は「坂口中尉」）
『226』（1989年）：加藤昌也

参考文献

澤地久枝『妻たちの二・二六事件 新装版』中央公論新社〈中公文庫〉、2017年。

坂井直は、激動の時代に翻弄され、短い生涯を終えた軍人でした。二・二六事件という歴史的な事件に関わった一人として、彼の存在は今も語り継がれています。

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