城下町の女

三橋美智也『城下町の女』

1976年、国民的歌手として広く親しまれていた三橋美智也によって世に送り出されたスタジオ録音盤が、この『城下町の女』です。全12曲で構成される本作は、その大部分が特定の地域をテーマとした「ご当地ソング」で占められている点が大きな特色と言えるでしょう。アルバムタイトルにもなっている表題曲「城下町の女」を除いた11曲が、日本各地の城下町や名所を舞台にした楽曲となっています。

アルバムがリリースされた際に付属していた帯には、「抒情と哀愁の城下町 そこに生きる女のロマンをうたう三橋美智也の最新オリジナル・アルバム」というキャッチフレーズが刻まれており、本作のコンセプトが明瞭に打ち出されています。また、ジャケットの裏面には、収録楽曲の作詞を手がけた一人である杉紀彦氏による寄稿文「三橋美智也に託す…十一人の作家の祈り」が掲載され、アルバム制作に携わったクリエイターたちの作品への思いが込められています。

本作に収録されている楽曲は以下の通りです。

第1面

悲恋草（舞台：仙台）
作詞：杉紀彦／作曲：遠藤実／編曲：只野通泰
歌詞に登場する要素：城あと、宮城野
弘前の女（舞台：弘前）
作詞：矢野亮／作曲：三橋美智也／編曲：高田弘
歌詞に登場する要素：駅、土手町、リンゴ
春の音（舞台：松本）
作詞：山川啓介／作曲：いずみたく／編曲：親泊正昇
歌詞に登場する要素：信濃、雪崩、ピッケル
夕月（舞台：高遠）
作詞：横井弘／作曲：小町昭／編曲：佐藤準
歌詞に登場する要素：城跡、伊那谷、絵島
なみだ雪（舞台：高山）
作詞：横井弘／作曲：小町昭／編曲：佐藤準
歌詞に登場する要素：飛騨、乗鞍、三町、宮川、杉玉
金沢ひとり（舞台：金沢）
作詞：杉紀彦／作曲：井上忠夫／編曲：森岡賢一郎
歌詞に登場する要素：卯辰、犀川

第2面

南の風（舞台：高知）
作詞：阿久悠／作曲・編曲：川口真
歌詞に登場する要素：桂浜、城、よさこい、かんざし
琴という女（舞台：彦根）
作詞：山川啓介／作曲：いずみたく／編曲：親泊正昇
歌詞に登場する要素：紅がら格子
哀愁湖畔（舞台：松江）
作詞：阿久悠／作曲・編曲：川口真
歌詞に登場する要素：宍道湖、大橋、小紋
たそがれたずねびと（舞台：萩）
作詞：杉紀彦／作曲：遠藤実／編曲：只野通泰
歌詞に登場する要素：萩焼き、城のあった山、土塀、夏みかん
柳川の女（舞台：柳川）
作詞：矢野亮／作曲：細川潤一／編曲：高田弘
歌詞に登場する要素：有明海、不知火、どんこ舟
城下町の女
* 作詞：杉紀彦／作曲：井上忠夫／編曲：森岡賢一郎

これらの楽曲は、それぞれ異なる都市や地域を舞台にしながらも、「城下町」というテーマや、そこで生きる「女」の情感を中心に描かれています。歌詞には、仙台の城跡や宮城野、弘前の土手町やリンゴ、高山の古い町並みである三町、金沢の犀川、高知の桂浜、松江の宍道湖、萩の夏みかんや土塀、柳川のどんこ舟など、その土地ならではの風物や地名が織り込まれており、聴く者を情感豊かな情景へと誘います。

本作は、演歌・歌謡界の巨匠である三橋美智也が、特定のコンセプトのもとに制作したオリジナル・アルバムとして、そのキャリアにおいてもユニークな位置を占める作品と言えるでしょう。各地の風景とそこに暮らす人々の人生、特に女性の切なさや哀愁、そしてロマンを描いた楽曲群は、三橋美智也の表現力によって一層深みを増しています。単なる観光紹介ソングに留まらず、文学的な香りを漂わせる歌詞とメロディーが融合し、聴きごたえのある作品として完成されています。

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