執炎

小説『執炎』について

加茂菖子の小説『執炎』は、昭和初期の因幡地方を舞台に、激しい愛と運命に翻弄される男女の姿を描いた作品です。1964年と1978年に映画化されており、特に後者は『炎の舞』というタイトルで、山口百恵と三浦友和の主演で制作され、大きな話題を呼びました。

あらすじ

物語は昭和10年代の因幡から始まります。主人公の吉井拓治は、13歳の時に不思議な少女、久坂きよのと出会います。時が流れ、水産学校を卒業した拓治は、山で再会したきよのに強く惹かれ、恋に落ちます。二人は結ばれますが、きよのは山奥に住む平家部落の娘であり、二人の出会いは村の古い因習を破るものでした。

戦況が悪化する中、拓治に召集令状が届きます。きよのは夫を見送り、節度ある生活を送りますが、心には虚しさが募ります。戦場で重傷を負った拓治は、佐世保病院で療養生活を送ることになります。献身的な看病のおかげで拓治は奇跡的に回復し、夫婦は束の間の穏やかな日々を過ごします。

しかし、戦争の恐怖は二人に影を落とし、漁師として働きながらも、互いの愛を確かめ合う日々を送ります。そんな中、きよのは友人の夫の戦死を知り、拓治への独占欲を募らせます。そして、再び拓治に召集令状が届き、彼は戦場へと戻ります。きよのは、能面をつけ、執念にも似た思いを込めて舞い、夫の無事を祈りますが、昭和20年6月、拓治は南方で戦死してしまいます。その事実を知らされないまま意識を回復したきよのは、黒髪を切って拓治の仏壇に供え、夫の命を奪った海へと身を沈めるのでした。

1964年版映画

1964年には、蔵原惟繕監督により映画化されました。主演は浅丘ルリ子ときよの役に、伊丹一三が拓治役を演じました。この映画では、原作の持つ悲劇的な愛の物語が忠実に描かれ、当時の観客に大きな感動を与えました。

主なキャストは以下の通りです。

久坂きよの：浅丘ルリ子（少女時代：桐生かほる）
吉井拓治：伊丹一三
久坂あやの（きよのの妹）：松尾嘉代
吉井秀治（拓治の弟）：平田大三郎
野原泰子：芦川いづみ
野原則義（泰子の夫）：上野山功一
久坂宗道（きよの・あやのの父）：信欣三
久坂玉乃（きよの・あやのの母）：細川ちか子
吉井ちか（拓治・秀治の母）：奈良岡朋子
小島：宇野重吉


スタッフ

製作：日活
監督：蔵原惟繕
企画：大塚和
脚本：山田信夫
撮影：間宮義雄
照明：吉田一夫
録音：福島信雅
美術：松山崇
音楽：黛敏郎
編集：鈴木晄
助監督：神代辰巳
製作担当者：杉山暢孝
方言指導：藤野雅之
ナレーター：鈴木瑞穂
按舞：葵妖子
協力：福知山鉄道管理局

ロケ地

兵庫県 香住町 余部橋梁
福井県 越前町
富山県 上平村／平村
石川県 輪島市

1978年版映画

1978年には、『炎の舞』というタイトルで、山口百恵と三浦友和の主演で再映画化されました。これは、二人のコンビによる9作目の映画であり、当時の若者を中心に大きな支持を集めました。この映画では、戦時下の悲劇と、その中で生きる男女の激しい愛が、より鮮烈に描かれています。

総評

『執炎』は、戦争という時代の大きな波に翻弄されながらも、激しく愛し合った男女の悲劇を描いた作品です。小説、映画を通して、その深いテーマは多くの人々の心に響き、今もなお愛され続けています。

外部リンク

執炎 - allcinema
執炎 - KINENOTE

もう一度検索