堀尾文人

堀尾 文人

堀尾 文人（ほりお ふみと、本名：ジェームズ・フミオ・ホリオ）は、1907年3月15日にアメリカ合衆国ハワイ準州マウイ島で生まれたプロ野球選手です。日系二世としてアメリカ国籍を持ち、愛称の「ジミー」から「ジミー堀尾」とも呼ばれました。彼は日本プロ野球の黎明期において、巨人軍の創設メンバーとなり、初の外国人選手であると同時に、最初の本格的なスイッチヒッターとしてその名を残しています。また、アジア人として初めてメジャーリーグの舞台に立つことを目指した選手としても知られています。

生い立ちと野球への情熱

堀尾の両親は広島県出身で、1890年に数万人の同郷者とともにハワイ王国（後にアメリカ合衆国ハワイ準州となる）へ移民しました。一家はマウイ島のさとうきび畑で過酷な労働に従事する中、ジミーは8人兄弟の7番目として生まれました。3歳で兄と共に広島市牛田の父の実家へ渡り、9歳まで日本で暮らした後、再びマウイ島に戻ります。マウイ島は当時、野球が盛んな土地でしたが、本土のメジャーリーグ情報は少なく、周囲に野球に関心を持つ者もいませんでした。しかし、抜きん出て体格が良く、野球の才能に恵まれていたジミーは、少年時代から日系人としてプロ野球選手第一号になることを目標としていました。高校を中退し、野球に打ち込みます。

アメリカ本土での挑戦

1928年、堀尾一家は広島へ引き揚げますが、プロ選手の夢を諦めきれなかったジミーは、単身でアメリカ本土へ渡ります。ロサンゼルスでトラック運転手として生計を立てながら、日系人の野球チームでプレーを続けました。アマチュアチームでの活動を経て、1930年には地区最強のセミプロチーム、ロサンゼルス・ニッポンズに入団します。1931年春、大阪毎日新聞記者の尽力により、ニッポンズの一員として来日。法政大学などの日本の強豪チームと対戦し、圧倒的な強さを見せつけました。ジミー自身も強肩、強打、堅実な守備で日本の野球ファンに鮮烈な印象を残します。日本語も話せたため、日本の選手とも親睦を深めました。帰国後もニッポンズで3年間プレーを続けますが、メジャーリーグのスカウトから声はかかりませんでした。

1934年、27歳になったジミーは、マイナーリーグのサウスダコタ州スーフォールズのチーム「カナリーズ」（ネブラスカ・ステート・リーグ、Dクラス）に入団。ここではその卓越した外野守備が高く評価され、「黄渦（イエロー・ペリル）」というあだ名で呼ばれました。しかし、唯一の日本人選手であった彼は、相手チームや観客からの執拗な野次に苦しむことになります。

日本プロ野球創設への参加

同年秋、メジャーリーグ選抜チームが日本へ遠征し、その対戦相手として全日本チームが編成されるという情報を得たジミーは、日本野球への参加を通じてメジャーリーグ契約を勝ち取るという大胆なアイデアを思いつきます。カナリーズを退団し、妻ヨシとともに横浜行きの船に乗りました。船中で出会った日系二世のスポーツ記者、ウォレス平井の協力で、ジミーの野球人生に関する記事がハワイの新聞に掲載されます。来日後、全日本チーム監督の三宅大輔に手紙を送った結果、選抜テストに合格。全日本チームはアマチュアであると説明されますが、読売が創設するプロ野球リーグへの参加意思を示すことで、全日本チーム入りと大日本東京野球倶楽部への入団がその場で決定しました。こうして、堀尾は唯一の外国人選手として、巨人軍初代背番号4を背負うことになります。

1934年11月、ベーブ・ルースやルー・ゲーリッグら擁するMLB選抜チームとの対戦では、強打者が揃う全日本チームの中で4番に座りました。しかし、プレッシャーからか成績は振るわず、スタメンからも外れるなど苦い経験をしました。沢村栄治の有名な快投試合にも途中出場しています。このシリーズ全体で、MLB選抜は47本のホームランを放ったのに対し、日本人打者はわずか3本でしたが、そのうち1本はジミーが記録したものでした。メジャーリーグ契約という野望は叶いませんでしたが、英語が堪能だったため、通訳として両チームの選手間の交流を深めるのに一役買いました。

アメリカ遠征と再挑戦

翌1935年、巨人軍はアメリカ遠征を行います。サンフランシスコ・ミッションズとの第2戦では3番を打ち、ライトフェンスを軽々と越えるスリーランホームランを放ちました。初戦に完封負けを喫し、「非力」と見なされていた日本のベースボールプレーヤーのイメージを覆し、日本のプロチームがアメリカのプロチームに初めて勝利するのに大きく貢献しました。遠征中、チーム最多のホームランを放ったとされる活躍が認められ、遠征終了後、サクラメント・セネターズ（AAクラス）と契約し、アメリカに残留します。この頃のAAクラスは実質的なレベルがメジャーリーグに近いと言われていました。

しかし、遠征の過酷なスケジュールによる足の怪我や、妻ヨシの交通事故死などが重なり、シーズン後半は成績が急降下しました。この年、後の名選手ジョー・ディマジオとも対戦しています。翌1936年にはシアトル・インディアンズに移籍。同年、東京巨人軍と改名した古巣が再びアメリカ遠征に来た際には、敵チームとして対戦しました。しかし、29歳でのマイナーリーグ下位チームへの移籍を言い渡され、ついにメジャーリーグ入りの夢を諦めます。

阪急、そして阪神へ

メジャーリーグへの道を閉ざされた堀尾は、当時阪急軍の監督に就任していた三宅大輔の誘いを受け、1936年5月、創設間もない阪急軍に入団しました。阪急での背番号は23。四、五番打者として主力となり、広い守備範囲、強肩、正確な本塁送球といった三拍子揃ったセンターとして活躍。西村正夫（または山下好一）、山下実と共に「百萬弗外野陣」と呼ばれました。初期プロ野球の中でも屈指の外野陣を形成したと言われています。

彼の打撃スタイルは、当時の日本選手に多かった「当てる」バッティングではなく、腕力に任せてバットを「振り切る」異端のもので、打率は高くありませんでしたが、時折放たれる打球は「ロケット弾」と称されるほどの長打となりました。1936年には1試合3三塁打の日本タイ記録、1937年には戦前の後楽園球場での場外ホームランを放つなど、強打の一端を見せています。同年開設された西宮球場は、堀尾を通じて取り寄せられたリグレー・フィールドの設計図を参考に建てられたとも言われています。また、俊足でもあり、3イニング連続3打席連続三塁打という史上唯一の記録も残しています。

守備は打撃以上に洗練されており、戦前のセンターでは最も巧かったという声もあります。アメリカのプロ野球で一般的だった牛骨を使ったバットの手入れなど、野球用具を大切にすることの重要性も説きました。当時の多くの選手はバットを1本しか持参しない中、30本以上を所有していたといいます。英語が話せる一方で、日本語はたどたどしく、スター選手が多かった阪急ではチームメイトとの間に距離があったという説と、可愛がられたという説の両方があります。

1939年、三宅監督の退任に伴い堀尾も阪急を退団。同じ日系人の若林忠志に誘われ、敵対関係にあった大阪タイガース（後の阪神軍）へ移籍します。背番号は31。この移籍は物議を醸し、彼の少ない人気をさらに損ね、罵声を浴びせられることもあったといわれます。しかし、ここでもレギュラーとして活躍し、山口政信の入営による穴を埋めました。阪神タイガース第12代の4番打者も務めています。スイッチヒッターでしたが、阪急入団後は主に右打席に立っていたようです。

ハワイ帰国と晩年

日米間の関係が緊迫する中、1941年6月14日、アメリカ政府の召喚命令により、阪神を退団し、二人目の妻アイリーンと息子ジェームズを連れてハワイへ帰国しました。帰国後は真珠湾の造船所で働き、貯めた資金でガソリンスタンドを購入するなど、新しい生活を築きました。同時にハワイリーグで野球を続けています。1941年12月8日の真珠湾攻撃の際は、自宅上空を日本軍機が通過するのを目の当たりにしました。戦中、日本に残した家族は悲劇に見舞われ、1943年には広島の父が病死、1945年8月6日の広島市への原爆投下により兄を亡くしました。1945年、39歳でユニフォームを脱ぎました。

その後、日本へ帰って父の墓参りや家族を訪ねる機会がないまま、骨肉腫を患い、1949年12月11日に骨ガンにより42歳で死去しました。

逸話

阪急に入団した1936年、広島に帰省した際に写真館で見かけた女性のポートレートに心を奪われ、探し出して再婚したというエピソードがあります。その相手は、実家の近くに住む9歳年下の日系二世、アイリーンでした。また、阪神移籍の頃には経済的に困窮していたのか、借家の家賃を取りに来た大家に対し、つわりの酷い妻に人工流産をさせる目的で椅子から飛び降りさせるという無謀な行為をさせていたという痛ましい話も残されています。

日本プロ野球の本格的なスイッチヒッター第一号については諸説ありますが、阪急・阪神時代に左打席に立つ機会が多かった堀尾こそが最初のスイッチヒッターであったという見方もあります。また、バットの手入れに関する厳しさや、怪力で選手を持ち上げたという逸話も残されています。

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