堀江正章

堀江正章の生涯

堀江正章（1859年 - 1932年）は、日本の洋画家であり、教育者としても活躍しました。彼は、西洋画の黎明期において、独自の画風を確立し、後進の育成にも尽力しました。

生い立ちと松本時代

1859年、信濃国松本（現在の長野県松本市）で、藩士の三男として生まれました。幼名は二木正章。後に叔父の養子となり、堀江正章と改名します。15歳で開智学校に入学し、その後、筑摩県師範講習所へ進みます。特に数学と理科に才能を発揮したと伝えられています。

東京での修学と画業

1878年、20歳で東京へ出て、工部大学を目指すも、同年11月に工部美術学校に入学し、本格的に美術の道に進みます。工部美術学校では、イタリア人画家のフェレッティやサン・ジョバンニに師事しました。特にサン・ジョバンニからは、明るい色彩表現の影響を受けたとされます。サン・ジョバンニは堀江の才能を高く評価し、彼の作品を母国に持ち帰ったという逸話も残っています。

1883年、工部美術学校が閉校した後、堀江は同窓の曽山幸彦、松室重剛と共に、洋画を教える私塾「画学専門学校」を設立しますが、資金難のため1年ほどで閉校を余儀なくされます。

大幸館での指導

1892年、かつての同窓である大野（曽山）幸彦が亡くなると、その門下生たちが堀江を招聘し、新たな私塾「大幸館」を開設します。堀江は、週2回講師として教鞭を執りました。この塾には、和田英作、岡田三郎助、中沢弘光など、後の日本美術界を担う多くの人材が集まりました。大幸館も経営難に陥りますが、堀江は、外国の大使館からの依頼を受け、肖像画などを制作し、塾の運営を支えたとされています。

千葉中学校での教育活動

1897年、39歳で千葉中学校（現在の千葉県立千葉高等学校）に赴任し、図画教師として35年間勤務しました。また、学生寮の舎監も務めました。堀江は、教員免許を持たない嘱託教師でしたが、その教育熱心さから生徒たちに慕われました。教員免許取得の勧めにも、かつての教え子に資格を量られることを嫌い、免状を得ようとしませんでしたが、後に校長の推薦で教員免許を取得しています。教え子には、柳敬助、石井林響など、後に画家として活躍する多くの人材を輩出しました。

1902年には、千葉県知事の委嘱により「耕地整理図」を制作し、内国勧業博覧会に出品しました。また、1904年には千葉中学校の帽章をデザインしています。1912年、松本市で実家が火災に遭ったため、母親と兄を千葉に迎え入れます。1913年には、55歳で結婚し、一女を儲けました。1922年には、勤続25年を祝う祝賀会が開かれ、その際、作品「富士山」を出品しています。

1932年、74歳で死去。その功績を称え、1955年には顕彰碑が建立されました。

堀江正章の画風と作品

堀江正章の画風は、工部美術学校で学んだ西洋画の技法を基礎としながらも、独自の色彩感覚に基づいた明るい画風が特徴です。特に、三原色の原理をいち早く取り入れた画法は、当時の洋画界に大きな影響を与えました。

三原色を用いた画法

堀江は、黒田清輝らが印象派の技法を紹介する以前から、三原色を用いた明るい色彩表現を追求していました。そのため、「コバルト先生」という愛称で親しまれていました。彼の作品は、当時としては非常に斬新で、多くの画家たちに影響を与えました。

主要作品

耕地整理図: 1902年頃に制作された、香取郡多古町の耕地整理の様子を描いた作品です。写実的な描写の中に、堀江の色彩感覚が光ります。
室内草花: 1912年に制作された作品で、松戸の園芸学校に通って描かれたとされています。静物画の中に、植物への深い愛情が感じられます。
* 富士山: 1922年の勤続25年祝賀展に出品された作品です。片瀬から見た富士山を描いたもので、堀江の晩年の代表作の一つです。

その他の作品

堀江は、多くの肖像画も手掛けています。その中には、千葉中学校の校長であった西村房太郎の肖像画や、彼の家族の肖像画なども含まれています。また、風景画や静物画など、多様なジャンルの作品を制作しました。これらの作品は、現在、千葉県立美術館や東京芸術大学大学美術館などに所蔵されています。

教育者としての堀江正章

堀江は、画家としての活動と並行して、教育者としても多くの才能を育てました。工部美術学校での指導経験を活かし、私塾「画学専門学校」や「大幸館」では、実践的な指導を行いました。千葉中学校では、35年間にわたり、生徒たちの美術教育に尽力しました。彼の教え子たちは、後に画家や美術教育者として、日本の美術界を牽引する存在となりました。

堀江正章の遺産

堀江正章は、日本の洋画黎明期において、独自の画風を確立し、多くの後進を育てた重要な人物です。彼の作品は、その明るい色彩表現と、対象への深い愛情が特徴です。また、教育者としての彼の功績は、今日の日本の美術教育に大きな影響を与えています。堀江正章の存在は、日本の美術史において、決して忘れることのできないものとなっています。

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