壊れた扉から

壊れた扉から

『壊れた扉から』は、日本のシンガーソングライター、尾崎豊が1985年11月28日にCBS・ソニーから発表した通算3作目となるオリジナル・アルバムです。英語タイトルは『THROUGH THE BROKEN DOOR』。尾崎が10代のうちに3枚のアルバムをリリースするという目標が掲げられていたため、彼の20歳の誕生日の前日にあたるこの日に急ピッチで制作・リリースされました。

背景と制作

前作『回帰線』のオリコンチャート1位獲得とそれに続く大規模な「TROPIC OF GRADUATION TOUR」の成功を経て、尾崎豊はキャリアの勢いを加速させていました。特にツアー最終日の大阪球場公演では2万6000人を動員し、デビューからわずか1年8か月でスタジアムクラスのライブを実現するという快挙を成し遂げました。このツアーの最中に、次作となる本作のレコーディングが開始されます。これはスタッフによる「10代のうちに3枚目のアルバムを完成させる」という強い意向によるもので、極めてタイトなスケジュールでの進行となりました。

本作の制作は、尾崎自身の提案により、ライブでバックを務めるバンド「Heart Of Klaxon」を核に進められました。しかし、プロデューサーの須藤晃はこの提案に対し、十分なリハーサルとスタジオでの作業時間が必要であると指摘。レコーディングは、ツアーの合間を縫うように、大阪球場公演のリハーサルと同時期にスタートしました。編曲は前2作も手掛けた西本明が基本を担当しつつ、一部楽曲では尾崎とHeart Of Klaxonが共同でアレンジを手掛けました。当初、尾崎は10代での3枚目リリースという目標設定に反発していましたが、須藤の「あとになって意味を持つだろう」という言葉や、スタッフの熱意を感じ取り、最終的に同意したと後に語っています。

制作過程では、未完成の楽曲の作詞に難航するなど苦労もありました。「Forget-me-not」の歌詞は、リリース直前まで完成せず、スタッフ全員が泊まり込んで作業に追われる状況でした。締め切りが迫る中、廊下に寝そべって歌詞を練っていた尾崎は一時帰宅を希望。須藤は戻らない予感を抱きながらも、朝までの帰還を条件に許可します。結局、尾崎は朝日が昇ってからワインと寿司、そして大学ノートに書かれた「Forget-me-not」の歌詞を手にスタジオに現れ、その直後に録音されたテイクがアルバムに収められました。これにより、最終的に9曲収録という形でのリリースとなりました。

音楽性とテーマ

本作のアルバムタイトルは、プロデューサーの須藤晃が尾崎のイメージから命名したものです。須藤は、朽ち果てた扉の前に尾崎が立ち尽くす姿や、彼の内にある喪失感を表現したかったと語ります。尾崎自身は、社会という新しい扉を開けた先に広がっていた殺伐とした風景と、自身が開けてきた扉が壊れて横たわっているというイメージを本作に重ねています。

音楽性においては、前作までに顕著だった大人や社会に対する反抗的なメッセージ性が薄れ、より内省的な自問自答や街の情景を描いた楽曲が多く収録されています。この変化は批評家の間でも賛否が分かれる点となりました。一方で、バンドサウンドを意識した音楽性は概ね肯定的に評価されており、Heart Of Klaxonとの一体感や、厚みを増したコーラスアレンジ、多様な音楽的要素の取り入れなどが指摘されました。

収録曲には、ニューヨークで見た人種差別や経済格差から影響を受けた「路上のルール」、須藤がその歌詞に自家中毒を感じたという「彼」、少年時代に暮らした練馬にあった米軍家族宿舎を背景にした「米軍キャンプ」などがあります。また、ライブでの定番曲であり、勢いのある一発録りで収録された「Freeze Moon」や、日常を象徴する場所としての「ドーナツ・ショップ」、難解な歌詞と疑問符の多用が特徴的な「誰かのクラクション」などが収められています。特に「Forget-me-not」は、後の尾崎の代表曲の一つとなりました。

リリースと商業成績

本作はLPレコードとカセットテープが1985年11月28日に、CDが同年12月8日にリリースされました。1991年のCD再リリース盤は、40万枚を超える売り上げを記録し、日本レコード協会のプラチナ認定を受けています。また、尾崎の死去直後の1992年には、過去のアルバムと共にオリコンチャートの上位を独占する現象が見られました。

本作からは先行シングルとして「DRIVING ALL NIGHT」がリリースされましたが、こちらはアルバム収録のスタジオバージョンではなく、大阪球場でのライブバージョンが使用されています。また、後に「Forget-me-not」がリカットシングルとしてリリースされ、映画主題歌としても広く知られることになります。

プロモーションとツアー

アルバムリリース前から、尾崎は「LAST TEENAGE APPEARANCE TOUR」をスタートさせており、本作はツアーの進行と並行して制作が進められていました。このツアーは尾崎の10代最後を飾るものであり、多くの会場でチケットは即日完売となるほどの注目度でした。特に代々木オリンピックプールでの2日間の公演は3万人を動員し、その模様はテレビ番組やフィルムコンサート、後のライブアルバムや映像作品に収録されています。

また、初のミュージックビデオ集『6 PIECES OF STORY』が制作され、本作から「Driving All Night」「Freeze Moon」「路上のルール」のMVが収録されました。「Freeze Moon」のMVでは、尾崎に大量のペンキをかけるという前衛的な演出が話題となりました。

「LAST TEENAGE APPEARANCE TOUR」終了後の1986年1月1日、尾崎は無期限活動休止を宣言し、ニューヨークへ渡航。約半年間を過ごすこととなります。

批評

本作に対する批評家の評価は多岐にわたります。音楽性、特にバンドサウンドの導入やアレンジの工夫に対しては肯定的な意見が多く見られました。一方、歌詞やメッセージ性が前作までから内省的な方向へ変化した点については賛否両論があり、ソングライターとしての成熟と捉える意見と、かつての鋭さを失ったとする意見が対立しました。しかし、全体としては、10代の総決算として自身と向き合った作品であり、音楽的な進化も見られるという肯定的な評価が多くを占めています。

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収録曲

SIDE A
1. 路上のルール
2. 失くした1/2
3. Forget-me-not
4. 彼
5. 米軍キャンプ

SIDE B
1. Freeze Moon
2. Driving All Night
3. ドーナツ・ショップ
4. 誰かのクラクション

参加ミュージシャン

※詳細省略

スタッフ

プロデューサー：須藤晃
レコーディング／ミキシング・エンジニア：助川健
デザイン／アート・ディレクション／写真撮影：田島照久
他エンジニア、ディレクター、スタッフ：※詳細省略

チャートおよび認定

※詳細省略

リリース日一覧

※詳細省略

参考文献

※詳細省略

外部リンク

※詳細省略

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