壬生家 (小槻氏)

壬生家：代々朝廷に仕えた名家の歴史

小槻氏嫡流の栄光と苦難

壬生家（みぶけ）は、小槻氏（おつきし）の嫡流を継ぐ地下家であり、華族に列せられた家系です。その起源は小槻隆職に遡り、南北朝時代頃から壬生を称するようになりました。彼らは代々、太政官弁官局において重要な役割を担い、大夫史（五位の左大史）の職を世襲しました。この官務を担う家柄として「官務家（かんむけ）」と呼ばれ、朝廷において重要な地位を占めていました。

平安時代から鎌倉時代にかけて、小槻氏は太政官弁官局で記録の管理を担い、大夫史と算博士の職を世襲しました。少納言局にも同様の役割を担う「局務」が存在し、小槻氏と清原氏、中原氏は「両局」と呼ばれ、太政官の下級官吏を統率する地下家の筆頭として活躍しました。小槻氏内部でも、隆職流と広房流に分かれ、官務や算博士の職を相続する家系が分かれていました。隆職流は官務、広房流は算博士を継承することが通例でしたが、実際には両流が官務を争うこともありました。 隆職は源頼朝追討に関わったとして解官されるなど、波乱万丈な歴史を歩んでいます。しかし、その後復職を果たし、家系は存続しました。

室町時代の争いと統一

南北朝時代に入ると、隆職流は壬生家、広房流は大宮家と呼ばれるようになりました。この時代、公家全体が経済的に苦境に陥る中、壬生家と大宮家は、官務職や荘園の所有権を巡って激しい争いを繰り広げました。両家は有力な公家や武家と結びつき、訴訟を繰り返すほど対立が激化しました。応仁の乱では大宮家の官文庫が焼失し、壬生家が優勢となりました。大永7年（1527年）、和睦によって雄琴荘・苗鹿荘が壬生家の所有となり、経済的に困窮した大宮家は衰退の一途を辿ります。元亀3年（1573年）、大宮家は断絶し、壬生家が単独で官務を継承することになります。

江戸時代の「三催」と朝廷政治

江戸時代には、官務の壬生家、局務の押小路家（中原氏嫡流）、出納の平田家（中原氏庶流）の「三家体制」が形成されました。朝廷儀式の再興に伴い、壬生家と押小路家は多くの地下官人を登用し、独自の活動を行いました。しかし、幕府はこれを牽制するために平田家を同等の地位に引き上げようと試み、壬生家と対立しました。結果、平田家は両局よりやや低い家格とされ、三家は「三催」と呼ばれ、地下官人の頂点として明治維新まで朝廷に仕えました。壬生家当主である壬生孝亮は徳川家康の将軍就任に際し、宣旨の入った箱を献上するなど、重要な役割を果たしています。幕末には日米修好通商条約に反対する意見書を提出するなど、政治にも関わっていました。

明治維新とその後

明治維新後、壬生家は地下家筆頭格として押小路家と共に華族に列せられ、明治17年（1884年）には男爵に叙せられました。また、下野国にも壬生氏を称する一族がいましたが、これは小槻氏を仮冒した可能性が高いとされています。

貴重な歴史資料

壬生家は史官を務めた家柄でもあり、『続神皇正統記』、『続左丞抄』、『壬生家文書』、『壬生家譜』などの貴重な歴史資料を数多く残しています。これらには、太政官符、宣旨、日記、歴史書などが含まれ、中世から近世の朝廷政治や社会を知る上で貴重な史料となっています。特に『弘安四年日記抄』、『匡遠記』、『晴富宿禰記』、『雅久宿禰記』などは、当時の政治状況や社会情勢を詳細に記録した貴重な資料です。これらの資料は、壬生家の歴史だけでなく、日本の歴史を理解する上で重要な役割を果たしています。

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