壬生麻呂

壬生麻呂について

壬生麻呂（みぶのまろ）は、飛鳥時代（7世紀中期）に活躍した豪族で、常陸国（現在の茨城県）行方郡を拠点としていました。姓は連（むらじ）、名は麿とも記されます。冠位は小乙下、また茨城国造という地方官でもありました。

記録

『常陸国風土記』には、孝徳天皇の時代（653年）に、壬生麻呂が那珂国造の壬生夫子とともに、高向の大夫や中臣幡織田の大夫に請願し、茨城国造の所領から8里、那珂国造の所領から7里を割いて、行方郡を設置したという記録が残されています。この時、700戸あまりが郡の管轄下に入ったとされています。

また、『常陸国風土記』には、壬生麻呂が継体天皇の時代に箭括麻多智が開墾した谷を占有し、池の堤を築いたという記述もあります。この際、夜刀神（蛇神）が池のほとりの椎の木に集まって動かなかったため、麻呂は「池の修理は人々の生活を良くするためであるのに、なぜ神が天皇の教えに従わないのか」と大声で叫び、部下に命じて蛇を退散させました。この池は「椎井池」と名付けられ、池のほとりにある椎の木と湧き出る泉が名前の由来となっています。

『新編常陸国誌』によれば、壬生麻呂の子孫は行方郡の郡領となり、『風土記』の作者に上記の物語を伝えたとされています。

壬生麻呂の時代背景と神観の変化

箭括麻多智の物語では、蛇が水神として神聖視されていましたが、約150年後の壬生麻呂の時代には、蛇は単なる蛇として認識されるようになっていました。壬生麻呂は律令制度における官人であり、彼にとっての神は天照大御神でした。当時の人々は、神を天上界に存在する存在として認識しており、蛇神は天皇の教えに従わないものとして制圧されるべき対象とみなされました。この変化は、人間が神に対する権威を増していく過程を示しています。

参考文献

武田祐吉編『風土記』（岩波書店、1937年）
秋本吉徳：全校注『常陸国風土記』（講談社、2001年）
坂本太郎・平野邦雄監修『日本古代氏族人名辞典』（吉川弘文館、1990年）
竹内理三・山田英雄・平野邦雄編『日本古代人名辞典』6 （吉川弘文館、1973年）

関連項目

* 徒然草…第二百七段には、蛇に関する迷信を天皇の権威で打破する話が描かれています。

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