多聞院 (広島市)

多聞院は、広島県広島市南区に位置する寺院で、比治山の西麓登山道入口にあります。この寺は、その歴史的背景と、原爆の被害を今に伝える被爆建物である鐘楼が残ることで知られています。

歴史

多聞院の創建は、治承年間（1177年 - 1181年）に高倉天皇の勅願により、現在の呉市音戸町に建立されたのが始まりと伝えられています。その後、毛利氏の帰依を得て、天文年間（1532年 - 1555年）に現在の安芸高田市吉田町へ移されました。さらに、広島城築城に伴い、1590年（天正18年）には広島市西区の三滝山麓へと移転しました。現在の地に移されたのは、1604年（慶長9年）に福島正則によってです。

山陽文徳殿の建立

1934年（昭和9年）には、頼山陽の没後100年（1932年）を記念して、多聞院の境内に隣接して「山陽文徳殿」が建立されました。これは、頼家一族の墓所が境内にあることにちなんで、山陽を顕彰するために建てられたものです。

原爆被災

第二次世界大戦中、多聞院は戦災時の県庁の6番目の緊急避難先に指定されており、文徳殿には広島市の戸籍選挙課が置かれ、市役所から戸籍簿が移転されていました。1945年8月6日の原爆投下時には、爆心地から1.7kmの距離に位置していたにもかかわらず、本堂、庫裡、鐘楼などは大破しながらも焼け残りました。同日17時頃には、県防空本部が本堂に置かれ、20時以降には出張先から戻った高野源進知事の下で内務省への報告、救護班の出動命令が出されるなど、被爆直後の臨時の県庁として機能しました。翌7日朝に県庁が東警察署に移転した後、多聞院は臨時救護所として使用され、市中心部から鶴見橋を渡って避難してきた多くの被爆者の治療が行われました。文徳殿に保管されていた戸籍原簿は焼失を免れましたが、ガラスの破片で負傷した職員1名が亡くなりました。

1953年には、細工町の土地区画整理に伴い、「広島郵便局原爆殉職者之碑」が院内に建立されました。この碑には、原爆により亡くなった288人の職員や動員学徒の名前が刻まれています。

境内に現存する被爆建物は、梁と天井板が破損したまま保存されている鐘楼（1934年建立）です。被爆から4年後に鋳造された鐘には、「no more Hiroshima's」という言葉が刻まれています。この鐘は現在でも朝夕6時と8時15分に鳴らされ、平和への祈りを伝えています。

文化財

広島県指定史跡

頼家の墓 - 山陽の父春水や叔父杏坪などの墓があります。
植田艮背の墓 - 山崎闇斎の高弟であり、広島藩の儒学者であった植田艮背の墓です。

行事

毎年10月20日には「お人形供養会」が行われ、多くの人々が訪れます。

交通

広島電鉄5号線 比治山下電停下車すぐ。


多聞院は、歴史と文化、そして原爆の記憶が重なる場所です。訪れる人々は、その静寂の中で、過去と向き合い、平和への願いを新たにするでしょう。

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