夜の流れ

映画『夜の流れ』解説

『夜の流れ』は、1960年に公開された日本映画で、巨匠・成瀬巳喜男と川島雄三が共同で監督を務めた異色の作品です。成瀬巳喜男監督の『流れる』を彷彿とさせる花柳界を舞台に、オリジナル脚本で描かれています。プロデューサーの金子正且の回想によれば、藤本真澄が成瀬を慕っていた川島に共同監督を提案したことがきっかけで、この豪華な顔合わせが実現しました。

撮影は、成瀬監督がセットでの撮影を、川島監督がロケでの撮影をそれぞれ担当するという分担制で行われました。撮影、美術、照明の各セクションにもそれぞれ2名のスタッフが配置され、効率的に作業が進められました。また、ロケとセットで役者が重複しないように配慮しながら、短期間で撮影を終えたそうです。編集とダビング作業には両監督が立ち会い、共同作業ならではの苦労があったことが伺えます。

あらすじ

物語は、料亭「藤むら」で働く女将の綾（山田五十鈴）を中心に展開します。綾は苦労して一人娘の美也子（司葉子）を大学まで進学させますが、自身は料亭のパトロンである園田浩一郎（志村喬）から言い寄られていました。しかし、綾は園田の誘いを断り続けていました。美也子と園田の娘である忍（白川由美）は大学で友人同士で、二人は「藤むら」に出入りする芸妓たちとも親しくしていました。美也子はひそかに板前の五十嵐（三橋達也）に思いを寄せていましたが、五十嵐は綾と関係を持っており、そのことに苦悩していました。

一方、芸妓の一花（草笛光子）は、有能な呉服屋の滝口（宝田明）と新しい生活を始めようとしていました。しかし、別居中の夫である野崎（北村和夫）がつきまとい、彼女を苦しめていました。ある日、美也子は母である綾と五十嵐が関係を持っていることを知り、大きな衝撃を受けます。五十嵐は綾との関係を断とうとしますが、綾は逆上し、二人の関係は破綻します。その結果、綾はパトロンである園田からも見放されてしまいます。

夫との関係を清算して滝口との生活を始めた一花にも悲劇が襲います。失意の中、美也子は母の生活を支えるために芸妓になる決意をしますが、綾は自分のもとを去った五十嵐を追って一人で出て行ってしまいます。

キャスト

藤村美也子：司葉子
藤村綾：山田五十鈴
滝口速太：宝田明
五十嵐力：三橋達也
園田忍：白川由美
金太郎：水谷良重
一花：草笛光子
あけみ：星由里子
万里：横山道代
紅子：市原悦子
小町：北川町子
川津志満：三益愛子
村上弥生：越路吹雪
園田浩一郎：志村喬
野崎：北村和夫
英語教師：岡田真澄

スタッフ

製作:藤本真澄
監督: 成瀬巳喜男 、川島雄三
監督助手: 野長瀬三摩地、錦織正信
脚本:井手俊郎、松山善三
撮影:安本淳、飯村正
音楽:斎藤一郎
美術:松山崇、北辰雄
録音:藤好昌生、保坂有明
照明:石井長四郎、高島利雄
編集:大井英史
現像:東洋現像所

作品の評価

『夜の流れ』は、成瀬巳喜男と川島雄三という二人の巨匠が共同で監督を務めたことで、公開当時から大きな話題となりました。花柳界を舞台にした複雑な人間模様と、登場人物たちが抱える愛憎劇が見どころです。それぞれのキャラクターの心情を丁寧に描き出し、観る者の心を深く揺さぶる作品として、今もなお多くの映画ファンに愛されています。

参考文献

田中真澄、木全公彦、阿部嘉昭、丹野達弥『映画読本　成瀬巳喜男　透きとおるメロドラマの波光よ』フィルムアート社、1995年。ISBN 4845995395。

外部リンク

夜の流れ - allcinema
夜の流れ - KINENOTE
Yoru no nagare - IMDb（英語）
夜の流れ - 東宝WEB SITE
* 夜の流れ - 国立映画アーカイブ

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