夜想曲 (ドビュッシー)

ドビュッシー「夜想曲」：光と印象の音楽

クロード・ドビュッシーが1897年から1899年にかけて作曲した管弦楽曲『夜想曲』は、「雲」「祭」「シレーヌ」の3曲からなる組曲です。フランス語では「ノクチュルヌ」とも呼ばれ、初稿と改訂稿の両方の楽譜が存在します。

タイトルについて

「夜想曲」（ノクターン）は、もともとショパンが発展させた器楽曲のジャンルですが、ドビュッシーは自身の作品について、「夜想曲という題名は、ここではより一般的な、装飾的な意味で理解されるべきだ」と述べています。彼は、音楽形式としての夜想曲ではなく、様々な印象や光の効果を表現する手段として、このタイトルを用いたのです。

作曲の経緯

『夜想曲』が完成するまでには長い道のりがありました。初期の構想として、1892年には「3つの黄昏の情景」という作品が計画されましたが、これは実現しませんでした。その後、1894年には「ヴァイオリンと管弦楽のための夜想曲」が構想されましたが、ヴァイオリニストとの関係が悪化したため、これも実現しませんでした。最終的に、1897年12月に現在の形での『夜想曲』の作曲が開始されました。

初演

「雲」と「祭」の2曲は1900年12月9日にパリで初演され、翌1901年10月27日には全3曲が同じくパリで初演されました。批評家アルフレッド・ブリュノーは、この作品をホイッスラーの絵画になぞらえましたが、これはホイッスラーが「夜想曲」というタイトルの絵画を多く描いていたことが影響していると考えられます。ドビュッシー自身も、ホイッスラーの色彩と音楽の融合に共感しており、彼の絵画から着想を得た可能性も指摘されています。
日本初演は、1927年12月17日に奏楽堂にて行われました。

楽曲構成

全3曲からなり、演奏時間は約25分です。

1. 雲 (Nuages)

空をゆっくりと流れる雲の様子を描写した曲です。冒頭には、セーヌ河にたなびく雲を表現するクラリネットとバスーンの動機が現れます。この動きは、ムソルグスキーの歌曲集から借用したという指摘があります。4分の6拍子のリズムに、汽船のサイレンを模したコーラングレの旋律が4分の4拍子のポリリズムで絡み合い、拍節感を曖昧にしています。弱音器をつけた弦楽器が細分化され、独特の「灰色」のテクスチュアを作り出します。中間部では、ハープを伴ったフルートが東洋的な五音音階の旋律を奏でますが、これは1889年のパリ万博でドビュッシーが聴いたジャワのガムランの影響と考えられます。

2. 祭 (Fêtes)

祭りの盛り上がりと、祭りの後の静けさを描いた曲です。力強い空虚五度のリズムが刻まれ、木管楽器がスケルツォ風の主題を奏でます。活発な祭りの音楽が中断すると、遠くから幻影のような行列が近づいてきます。やがて、祭りの主題と行列の主題が同時進行し、クライマックスを迎えた後、静かに終わります。トランペットによって、次の「シレーヌ」の序奏がさりげなく予告されます。

3. シレーヌ (Sirènes)

ギリシャ神話に登場するセイレーンを題材にした曲です。トロンボーン、チューバ、ティンパニ、打楽器は使用されず、女声合唱（ヴォカリーズ）が加わります。月の光を反射してきらめく波と、セイレーンの神秘的な歌声が、精緻なオーケストレーションによって表現されています。ドビュッシーが『海』を作曲するのは、この後、1903年のことです。

楽器編成

各曲で使用する楽器とオーケストレーションは異なります。

雲：フルート2、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット2、バスーン3、ホルン4、ティンパニ、ハープ、弦五部
祭：フルート3（ピッコロ持ち替え）、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット2、バスーン3、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、打楽器、ハープ2、弦五部
* シレーヌ：フルート3、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット2、バスーン3、ホルン4、トランペット3、ハープ2、女声合唱、弦五部

脚注

外部リンク)：国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）で、『夜想曲』の楽譜が閲覧できます。

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