ヴォカリーズ

ヴォカリーズとは

ヴォカリーズ（vocalise）は、歌詞を用いず、母音のみで歌う歌唱法を指します。この言葉は、フランス語の動詞「vocaliser」（声にする、声だけで歌う）に由来し、母音唱法とも呼ばれます。

歴史

ヴォカリーズの起源は18世紀半ばに遡ります。ジャン＝アントワーヌ・ベラールが編纂した曲集『歌の技芸』（1755年）では、リュリやラモーの歌曲の旋律が歌詞なしで掲載され、声楽技巧の練習曲として用いられました。19世紀に入ると、既存の歌曲から旋律を取り出すのではなく、教育的な目的で新たに作曲されることが一般的になりました。また、ピアノ伴奏付きのヴォカリーズ練習曲も登場し、音楽的な解釈を深める試みも行われました。

代表的な作品

ヴォカリーズの代表的な作品として、ラフマニノフの『ヴォカリーズ』作品34-14が挙げられます。ソプラノ歌手アントニーナ・ネジダーノヴァのために作曲され、当初はピアノ伴奏歌曲でしたが、後に管弦楽伴奏版や、独奏楽器とピアノのための二重奏版も作られ、広く親しまれています。

その他の作曲家によるヴォカリーズ作品としては、ラヴェルの『ハバネラ形式のヴォカリーズ練習曲』、プロコフィエフの『5つの歌』作品35、コープランドの『ヴォカリーズ』、メシアンの『ヴォカリーズ』などがあります。これらの作品は、ラフマニノフの作品と同様に、作曲者自身や他の音楽家によって器楽用に編曲されることも多くあります。

メシアンの『世の終わりのための四重奏曲』第2楽章「世の終わりを告げる天使のためのヴォカリーズ」は、器楽で天使の声を「再現」したもので、声楽パートは含まれていません。

グリエールは、ヴォカリーズによる独唱とオーケストラのための「協奏曲」として、『コロラトゥーラ・ソプラノのための協奏曲』を作曲しています。また、オーケストラ作品において、部分的にヴォカリーズによる独唱を用いる例もあります。

合唱におけるヴォカリーズ

合唱では、ヴォカリーズは主旋律の伴奏や、音色的な効果を狙うために広く用いられています。合唱全体がヴォカリーズで構成されている作品には、以下のようなものがあります。

ドビュッシー『夜想曲』第3楽章「シレーヌ」
ラヴェル『ダフニスとクロエ』
バルトーク『中国の不思議な役人』
ホルスト『惑星』終曲「海王星」
ディーリアス『高い丘の歌』
ヴォーン・ウィリアムズ『南極交響曲』

これらの作品では、ヴォカリーズが独特の雰囲気や色彩を生み出しています。

声楽練習曲としてのヴォカリーズ

ヴォカリーズは、発声練習にもよく用いられます。ジュゼッペ・コンコーネによるヴォカリーズ練習曲集は、声楽の基礎を学ぶ上で重要な教材となっています。

ヴォカリーズと関連する音楽用語

スキャット: ジャズにおける即興的な歌唱法で、意味のない音をメロディに合わせて歌います。
ヴォーカリーズ: ジャズにおける歌唱法で、器楽の即興演奏に由来する旋律に、歌詞をつけて歌います。
無言歌: 器楽曲の一種で、「言葉のない歌」という意味を持ちます。歌詞はありませんが、歌のような旋律を持つのが特徴です。

外部リンク

VOCALISES AND OTHER "SONGS WITHOUT WORDS": ヴォカリーズや歌詞のない独唱・重唱曲のリスト
* Textless Choral Music: 歌詞のない合唱曲のリスト

ヴォカリーズは、声楽の技術向上だけでなく、音楽表現の幅を広げるための重要な要素です。多様な作品を通じて、ヴォカリーズの魅力を感じてみてください。

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