夜明けのロボット

『夜明けのロボット』解説

アイザック・アシモフが1983年に発表したSF小説『夜明けのロボット』は、『鋼鉄都市』、『はだかの太陽』に続く、ロボット長編シリーズの第3作です。本作は、SFミステリの要素を色濃く打ち出し、人間ではなくロボットが殺されるという、異色の謎を描いています。

物語は、ニューヨーク市警の刑事イライジャ・ベイリが、スペーサー・ワールドの中でも最も強大な国家であるオーロラのロボット工学者、ファストルフ博士の危機を知るところから始まります。親地球派のリーダーである博士が失脚すれば、ベイリたちの宇宙進出の機会も失われてしまうため、ベイリはオーロラへと向かいます。

オーロラでベイリは、旧知の仲であるR・ダニール・オリヴォーと再会し、さらにファストルフ博士の執事ロボットであるR・ジスカルドと出会います。スキャンダルの原因は、ダニールと同型のヒューマンフォーム・ロボット、R・ジャンダー・パネルの突然の機能停止にあることを知ったベイリは、事件の真相を究明するために動き出します。

ジャンダーの機能停止は、ファストルフ博士にかけられた嫌疑を招いていました。短命ながら活力に満ちた地球人こそが銀河系の新たな開拓者にふさわしいと考えていた博士でしたが、皮肉にも博士自らが開発したヒューマンフォーム・ロボットこそが開拓者にふさわしいという声が反地球派から上がり、そのために博士が自らジャンダーを破壊したというのです。加えて、ヒューマンフォーム・ロボットの設計理論はファストルフ博士独自の物であり、ジャンダーを機能停止させ得る人間も博士ただ一人でした。さらにベイリは、ソラリアでの事件を彼が解決した後、オーロラに移住していたグレディアと再会し、彼女がジャンダーと共に暮らしていた事、さらに彼と性的関係にあった事を知ります。

ベイリは、ダニールとジスカルドを連れて、ヒューマンフォーム・ロボットの自主開発のためにファストルフ博士に敵対する勢力が設立した「ロボット工学研究所」へ向かいます。そこでベイリは、博士の実の娘でありながら、思想の違いから敵対しているヴァジリア博士、そして反地球派のリーダーで地球人を忌み嫌っているアマディロ博士と対峙します。

ベイリは、緻密な捜査の結果、オーロラ政府議長の前で事件の真相とアマディロの悪事を解明し、ファストルフ博士を勝利に導きます。しかし、事件の本当の「真相」は、その直後に明らかになるのでした。

本作は、単なるSFミステリとしてだけでなく、ファウンデーションシリーズとの関連も示唆されています。作中では「心理歴史学」に言及されるなど、両シリーズを繋ぐ要素が盛り込まれており、シリーズのファンにとっては見逃せない作品となっています。また、イライジャがダニールとの再会時に言及した「数学者の事件」は、1972年に書かれた短編「ミラー・イメージ」のエピソードを示唆するなど、過去の作品との繋がりも楽しめます。

アシモフのロボット工学三原則を背景に、複雑な人間関係とロボットの存在意義が絡み合う『夜明けのロボット』は、SFファンのみならず、ミステリファンにもおすすめの一作です。

書誌情報
『夜明けのロボット』上・下（小尾芙佐訳、ハヤカワ文庫SF） 1994年6月

関連項目
ファウンデーションシリーズ
* ロボット工学三原則

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