大乗の乱

大乗の乱（だいじょうのらん）

大乗の乱は、6世紀初頭の北魏で発生した大規模な宗教反乱です。515年（延昌4年）に沙門の法慶が冀州で挙兵し、瞬く間に数万の信徒を集め、北魏社会を震撼させました。

概要

大乗の乱は、単なる農民反乱ではなく、独特の教義を持つ宗教的な反乱でした。その最大の特徴は、「人を殺せば殺すほど位が上がる」という、常軌を逸した教えです。この教えは、当時の社会不安や末法思想と結びつき、多くの人々を惹きつけました。背景には弥勒菩薩が地上に現れて理想社会を建設するという弥勒下生信仰があったと見られています。

法慶は幻術を使い、信徒を増やしました。特に渤海郡の李帰伯一族を信奉者とし、李帰伯に「十住菩薩・平魔軍司・定漢王」という称号を与えています。教団の教えは過激で、一人を殺害すれば一住菩薩、十人を殺害すれば十住菩薩とされていました。信徒には狂薬を飲ませ、肉親すら認識できない状態にして殺害を繰り返させたと伝えられています。

反乱軍は寺院を破壊し、僧侶や尼僧を殺害し、仏像や経典を焼き払いました。彼らのスローガンは「新仏が世に出んとす、旧魔を除き去れ」というもので、既存の仏教勢力や社会秩序を否定するものでした。

北魏の対応

冀州刺史の蕭宝寅が討伐に向かいましたが、反乱軍に敗北。事態を重く見た北魏朝廷は、元遥を征北大将軍に任じて鎮圧に当たらせました。元遥は反乱軍を破り、法慶とその妻である尼僧の恵暉ら数百人を斬首し、首を都に送りました。李帰伯も後に捕らえられ、処刑されました。

影響と研究

大乗の乱は、北魏社会に大きな爪痕を残しました。この反乱をきっかけに、北魏の仏教政策は転換期を迎え、国家による仏教統制が強化されることになります。

大乗の乱については、様々な研究が行われています。重松俊章は、宋代の秘密結社「喫菜事魔」の淵源を大乗の乱に見出しました。塚本善隆は、大乗の乱を「仏教匪」として捉え、宗教的な側面から分析しました。佐藤智水は、大乗の乱と当時の災害との関連性を指摘しています。三石善吉は、大乗の乱を仏教的な千年王国運動として考察しました。

参考文献

重松俊章「唐宋時代の弥勒教匪」『史淵』3、1931年。
塚本善隆「北魏の仏教匪」『支那仏教史学』3-2　1939年。
佐藤智水「北魏末の大乗の乱と災害」『岡山大学文学部紀要』14、1990年。
三石善吉「大乗の乱：仏教的千年王国」『中国の千年王国』、東京大学出版会、1991年。

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