大川寛

大川 寛

日本の元プロボクサー、大川寛（おおかわ ひろし、本名：小川 寛）氏は、1933年2月21日に千葉県山武郡片貝町で生まれ、東京都台東区浅草を出身地とする。現役時代は共栄ジム（後の極東ボクシングジム、現在の極東ボクシングクラブ）に所属し、フェザー級、ライト級、OBF東洋ライト級、OBF東洋ジュニアライト級の3階級において、通算で5度の王座獲得という輝かしい実績を残した。

ボクサーとしての特徴

均整の取れた長身から繰り出す、左右のフックとスピードのある右ストレートを最大の武器とした大川氏は、その卓越した技術で多くの勝利を収めた技巧派として知られる。極東ジムが秋山政司や大越利晴といった日本王者を擁し全盛期を迎えていた時代、後に「精密機械」と称される世界王者、沼田義明を育てた小高伊和夫会長の薫陶を受けた。リングネームを本名の小川から大川に変えて戦った背景には、小高会長が「小川」という響きから心臓が小さいのではないかと案じ、リング上での不安を取り除くための配慮があったというエピソードが残されている。

プロキャリアを通じて100戦を超える豊富な試合経験を積み、これはピストン堀口や花田陽一郎ら、歴史に名を残すボクサーたちに匹敵する記録である。攻撃においてはやや慎重な面もあったとされるが、特筆すべきは優れたクリンチ技術であり、これにより相手の追撃を巧みに凌いだ。その結果、喫した23の敗戦のうち、KOによるものはわずか3度にとどまるという、驚異的なタフネスも兼ね備えていた。

来歴

大川氏のプロキャリアは1948年1月31日にスタートし、デビュー戦を判定勝利で飾った。主要な王座獲得歴は以下の通りである。

1954年3月13日、田中昇を3ラウンドKOで破り、日本フェザー級王座を初めて獲得。6度の防衛に成功するも、中西清明に判定負けを喫し王座を失った。
1957年4月19日、中西清明との通算4度目の対戦で判定勝利を収め、日本フェザー級王座を奪還した。しかし、この2度目の王座は防衛することなく手放している。
1956年6月28日には金子繁治の持つOBF東洋フェザー級王座に挑戦したが、判定負けを喫し、これが現役時代における唯一の王座挑戦失敗となった。
1957年8月4日には小林秀人を判定で下し、日本ライト級王座を獲得。しかし、OBF王座への挑戦準備のため、わずか9日後の8月13日にこの王座を返上した。
同年11月20日、オムサップ・ラエムファバーに9ラウンドKO勝利し、OBF東洋ライト級王座を獲得。1度防衛後、翌1958年3月2日にはフィリピンの国民的英雄であるフラッシュ・エロルデに判定で敗れ、王座を失った。同年6月17日には高山一夫に判定負けし、日本フェザー級王座も失っている。
1960年6月30日、東洋ボクシング連盟が新設したジュニアライト級の初代王座決定戦を制し、新たな階級の初代王者に輝いた。1度防衛を果たすも、1961年5月4日、キリサク・バーボスの右フックを受け敗戦。この試合を最後に現役を引退した。

通算戦績は116戦75勝（27KO）23敗4分1無判定13エキシビションという、現代では考えられないほどの多さである。1955年、1957年、1960年にはプロ・アマチュア年間表彰でプロ部門努力賞を受賞している。

引退後の活動

リングを降りた後、大川氏は広告代理店を経営する傍ら、1962年3月13日に自身で大川ボクシングジムを開設し、初代会長として後進の指導に当たった。ジムからは、プロ13戦目で日本ライト級王座を獲得した大友巌氏や、45歳という高齢でKO勝利を収めた横田広明氏など、多くのプロボクサーを育て上げた。2011年現在、大川ボクシングジムは日本プロボクシング協会には加盟していないものの、大友巌氏らがコーチを務め、「ザ・おやじファイト」といったアマチュア大会への参加者がトレーニングに励んでいる。

大川氏は2011年3月22日、肝癌のため、自宅で逝去した。ボクサーとして3階級5王座を制し、また指導者として多くの選手を育成したその功績は、日本のボクシング史に深く刻まれている。

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