大正大学本源氏物語

大正大学本源氏物語：室町後期の貴重な源氏物語写本

大正大学本源氏物語は、現存する源氏物語の写本の中でも特に貴重な存在です。室町時代後期（1490年～1493年）に書き写されたと推定され、全54帖が揃った状態で見つかったことから、学術的に高い価値を有しています。

写本の歴史と特徴

この写本は、岐阜県飛騨地方の旧家に代々伝わるものでした。1997年、大正大学が購入したことで同大学の所蔵となり、「大正大学本源氏物語」と呼ばれるようになりました。2003年には一般公開が開始され、現在では大正大学図書館のウェブサイトで、全帖全頁のデジタル画像が公開されています。

54帖全てが斐紙（ひじ）という良質な紙に書かれており、統一された書式で製本されているのも特徴です。各帖の巻末には、写経者に関する奥書が記されており、以下のような人物名が確認できます。

帚木: 冷泉政為
空蝉: 近衛政家
夕顔: 甘露寺親長
若紫: 小倉季種
末摘花: 一条冬良
行幸・鈴虫・紅梅: 中御門宣胤
* 匂宮・手習: 近衛政家

さらに、題字は後柏原天皇の第五皇子である清彦親王（尊鎮法親王）によるものと伝えられています。江戸時代初期に作られたとみられる黒漆塗りの専用箪笥に収められており、箱の題字は角倉素庵の筆跡であるとされています。

本文系統と特徴

大正大学本源氏物語の本文系統は、当時の主流であった青表紙本系統に属します。しかし、巻によっては、大島本、肖柏本、宮内庁書陵部蔵三条西家本、日本大学蔵三条西家本といった他の系統の写本に類似する箇所も見られます。また、阿里莫本や麦生本に近い独自の異文も含まれており、既存のどの写本とも直接的な継承関係がない、独特の本文系統であることが示唆されています。

翻刻と研究

大正大学本源氏物語の学術的な研究も進められています。大場朗氏と魚尾孝久氏らによる詳細な翻刻作業が、大正大学研究紀要や国文学試論といった学術誌で発表されています。これらを通して、本文の精密な分析や、当時の写本制作の実態解明などが期待されています。

参考文献

大正大学本源氏物語に関する研究論文や書籍は、その価値の高さを物語っています。上野英子氏、友井田未来氏らの研究は、この写本を多角的に考察し、その歴史的、文学的意義を明らかにしています。

まとめ

大正大学本源氏物語は、室町時代後期の写本文化を知る上で極めて重要な資料です。その精緻な書写、多様な本文系統の特徴、そして公開されたデジタル画像によって、現代の研究者や一般の人々にも広くアクセス可能になっています。今後の研究を通して、源氏物語の成立や伝播に関する理解がさらに深まることが期待されています。

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