大神虎主

大神虎主（おおみわ の とらぬし）

大神虎主は、平安時代初期から前期にかけて活躍した貴族であり、同時に卓越した医術で名を馳せた医師です。出自は神直（かんなお）でしたが、後に大神朝臣（おおみわのあそん）へと改姓しました。官位は従五位下・内薬正（ないやくのかみ）にまで昇り、その才能と人柄で多くの人々に慕われた人物です。

経歴

虎主は、承和2年（835年）に左近衛医師（さこんえのいし）に任じられ、そのキャリアをスタートさせました。その後、仁明天皇の侍医となり、その医術の腕前を認められます。承和15年（848年）には外従五位下に叙せられ、文徳天皇の時代にも引き続き侍医として活躍しました。

地方官としての活動も並行しており、斉衡元年（854年）には三河掾（みかわのじょう）、斉衡2年（855年）には備後介（びんごのすけ）、天安元年（857年）には伊予権掾（いよのごんのじょう）を歴任しています。また、斉衡3年（856年）には内位の従五位下に叙せられ、一族と共に神直から大神朝臣へと改姓しました。

清和天皇の時代に入ると、貞観2年（860年）には侍医から内薬正に転じましたが、その年のうちに63歳でこの世を去りました。最終官位は従五位下行内薬正でした。仁明、文徳、清和の三代にわたり侍医を務め、その間、物部広泉や菅原峯嗣らと共に医学書『金蘭方』50巻の編纂にも携わるなど、医学の発展に大きく貢献しました。

人物像

幼少の頃から才知に優れ、物事をよく理解する人物であったと伝えられています。医学の道に進んでからは、鍼や薬の技術を深く探求し、その奥義をほぼ極めたと言われています。虎主の治療は効果が高く、多くの人々がその医術を頼ったとされ、名医として知られた物部広泉の死後、その後を継いで医療技術において高い声望を得ました。

また、虎主は遊び心のある性格で、よく冗談を言っていたという逸話も残っています。ある時、禁中から地黄煎（じおうせん）を作る場所に向かう途中で友人に会い、どこへ行くのかと尋ねられた際、「天皇の命を奉じて地黄の所へ向かう」と答えたと伝えられています。

官歴

『六国史』には、以下の官歴が記録されています。

承和2年（835年）：左近衛医師に任ぜられる。
時期不詳：侍医となる。
時期不詳：正六位上に叙せられる。
承和15年（848年）1月7日：外従五位下に叙せられる。
斉衡元年（854年）3月14日：三河掾を兼任。10月22日：神直から大神朝臣へ改姓。
斉衡2年（855年）2月15日：備後介を兼任。
斉衡3年（856年）1月7日：従五位下に叙せられる。
天安元年（857年）1月14日：伊予権掾を兼任。
* 貞観2年（860年）11月17日：内薬正に転任、侍医を辞任。12月29日：卒去（従五位下行内薬正）。

大神虎主は、その卓越した医術と人柄で、平安時代初期の医療に大きな足跡を残した人物と言えるでしょう。

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