大船建造の禁

「大船建造の禁」(おおぶねけんぞうのきん)とは、江戸時代初期に制定された大名統制法令の一つである。この法令は、慶長14年（1609年）9月に、新しい幕府の樹立に伴い、当時の将軍・徳川秀忠によって発布された。ただし、この禁令の実質的な立案は初代将軍の徳川家康に帰せられる。この禁令は、西国の大名に対して、500石積み以上の軍船および商船の建造を禁止し、水軍力を制限することを目的としていた。

この禁令は二度にわたり発令され、西国大名に対して500石以上の軍船と商船を没収する形で実施された。しかし、対象となったのは主に沿岸航行を前提とした和船であり、外洋航行を前提とする朱印船は除外されていた。また、禁令の適用を受けた大名たちには、個別に影響があり、例えば池田輝政は大安宅船の一隻（紀伊丸）を没収された。その他にも、毛利秀就、蜂須賀至鎮、生駒一正、富田信高、加藤嘉明、山内康豊、細川忠興、稲葉典通、黒田長政、寺沢広高、鍋島勝茂らが禁令の影響を受けた。

一方、1625年には小浜光隆が黒田藩の黒田忠之を禁令違反として告発する事例もあったが、実際には証明されず、処罰には至らなかった。寛永12年（1635年）になると、武家諸法度が改訂され、第17条により500石以上の船の全国的な禁止が明言された。ただし、この際に商船や航洋船は対象外とされ、実際には幾つかの商船が法令に違反する形で取り扱われた。

寛永15年には再度の改訂が行われ、軍船のみが制限対象であることが明確にされた。このように、内航型の大型軍船は次第に廃止され、代わりに商船の運用が進められた。江戸時代初期は商業が未発達であったため、船舶に対する禁令は比較的穏当であったが、時代が進むにつれて商業が発展し、航路も増加したため、船舶による輸送が極めて重要なものとなっていった。このため、幕府も商船に対する規制を見直さざるを得なくなり、内航船である弁才船が海運の主流となっていった。

しかし、西国大名を含む水軍力の低下への影響は、禁令により著しく制限されることはなかった。多くの大名は、保有する軍船の数も少なく、また安宅船の保有も続けられたことから、実効性には限界があった。後に、安宅船はその機動性が悪いため次第に用いられなくなり、参勤交代の資材輸送の際に用いられる御座船や関船が主流となった。

大船建造の禁が、後の鎖国政策と同一視されることが多いが、実際には禁令自体は軍事利用を視野に入れたものであり、幕府は西洋船の艤装を含む三国丸の建造を行うなど、海軍力の強化を試みる時期もあった。

しかし、江戸時代後期になるとアメリカ、イギリス、ロシアなど西洋諸国の軍船が日本沿岸に押し寄せ、幕府や藩の脅威となった。この時期、老中の真田幸貫により大船建造の禁令撤廃が提案され、幕府も水軍の創設と強化の必要性を認識するようになる。1853年にはアメリカのマシュー・ペリーが来航し、一気に状況が変わる中で、禁令は撤廃された。これにより、薩摩藩や宇和島藩、佐賀藩、水戸藩なども西洋式の海軍を編成し始める。しかし、商人が西洋商船を所有できるようになるのは1861年のことであり、禁令が完全に撤廃されるにはさらに時間がかかった。

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