大語族

大語族・超語族：言語系統分類における巨大な謎

言語学において、言語の系統関係を明らかにすることは重要な研究テーマです。言語を分類する単位としては、「語族」がよく知られていますが、それよりもさらに大きな分類単位として「大語族（macro-family）」あるいは「超語族（superfamily）」という概念があります。これは、共通の祖先言語から分岐した複数の語族をまとめて呼ぶものです。

しかし、語族の分類は比較的明確な基準に基づいて行われるのに対し、大語族の分類は非常に困難です。語族は、基礎語彙（日常的に使われる単語）の系統的関係を基に分類されますが、大語族を構成する言語は、時間的な隔たりが非常に長く、基礎語彙の共通点が少なく、文法や音韻面での類似性も断片的であることが多いためです。そのため、大語族の分類は、主に推測に基づく仮説の域を出ないことが多いのが現状です。

主な大語族の仮説

現在、様々な大語族の仮説が提唱されていますが、いずれも学界で広く認められているわけではありません。以下、代表的な仮説をいくつか紹介します。

1. ノストラティック大語族

ノストラティック大語族は、最も古くから研究されている大語族仮説の一つです。ホルガー・ペデルセンによって提唱され、その後、Vladislav Illich-SvitychやAharon Dolgopolskyらによって発展させられました。この仮説では、アフロ・アジア語族、インド・ヨーロッパ語族、ウラル語族、アルタイ語族、ドラヴィダ語族、南コーカサス語族、そしてエスキモー・アレウト語族などを含む、広大な言語グループを想定しています。これらの言語族は、地理的に離れて分布していますが、音韻や文法、基礎語彙に共通点が見られると主張されています。しかし、その共通点の解釈には議論があり、ノストラティック大語族の成立は依然として未解明です。

2. ユーラシア大語族

ジョセフ・グリーンバーグによって提唱されたユーラシア大語族は、ユーラシア大陸の広範囲にわたる言語を包含する仮説です。インド・ヨーロッパ語族、ウラル語族、アルタイ語族に加え、エトルリア語、ユカギル語、朝鮮語、日琉語族、アイヌ語、ニヴフ語、チュクチ・カムチャッカ語族、エスキモー・アレウト語族などを含んでいます。ノストラティック大語族と同様に、地理的に離れた言語族を結びつける大胆な仮説であり、その妥当性については依然として激しい議論が続いています。

3. オーストリック大語族

ヴィルヘルム・シュミットによって提唱されたオーストリック大語族は、オーストロアジア語族とオーストロネシア語族という、東南アジアを中心に分布する二つの主要な語族を結びつける仮説です。さらに、タイ・カダイ語族やミャオ・ヤオ語族を含む場合もあります。これらの言語族には、共通の語彙や文法構造が一部に見られると主張されていますが、その関連性の強さや、分類方法については異論もあります。

4. 東アジア大語族

東アジア地域に分布する言語を対象とした大語族仮説です。シナ・チベット語族、モン・ミエン語族、オーストロアジア語族、オーストロネシア語族、クラ・ダイ語族などを含む、非常に多様な言語グループを想定しています。場合によっては、日琉語族や朝鮮語族も含まれることもあります。この仮説も、言語間の関連性の強さや、分類の妥当性について議論が続いています。

5. デネ・コーカサス大語族

John Bengtsonによって提唱されたデネ・コーカサス大語族は、北アメリカとコーカサス地方の言語を結びつける、非常に特異な仮説です。シナ・チベット語族、ナ・デネ語族、エニセイ語族、バスク語、北東コーカサス語族、北西コーカサス語族、そしてブルシャー語などを含む、広範囲にわたる言語グループを想定しています。しかし、この仮説は、他の大語族仮説と比較して支持者が少なく、その妥当性については疑問視する意見も多いです。

その他の大語族仮説

上記以外にも、インド・太平洋大語族（ジョセフ・グリーンバーグ）、ボレア大語族（セルゲイ・スタロスティン）、パプア諸語の大語族、アメリンド大語族（ジョセフ・グリーンバーグ）など、様々な大語族仮説が提唱されています。これらの仮説はいずれも、言語間の関連性の証明が難しく、学界での支持は限定的です。

究極の目標：世界祖語

究極的には、すべての言語が共通の祖先言語（世界祖語）から派生したという仮説があります。メリット・ルーレンなどがこの仮説を唱えています。これは、人類の起源を探求する上でも重要な研究テーマですが、世界祖語の存在を証明する明確な証拠は未だ見つかっておりません。

まとめ

大語族・超語族は、言語系統分類における大きな課題であり、未解明な部分が多く残されています。様々な仮説が提唱されていますが、いずれも決定的な証拠が不足しており、今後の研究の進展が待たれます。これらの仮説の検証には、膨大な言語データの分析、高度な計算言語学的手法の活用、そして、多様な専門分野の研究者との連携が必要となります。

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