大野果安

大野果安（おおの の はたやす）

大野果安は、飛鳥時代に活躍した人物であり、その名は歴史の重要な転換点となった壬申の乱において知られています。彼は、当初「君」姓を名乗っていましたが、後に「朝臣」姓に改めました。大野果安は、官位として直広肆と糾職大夫を務めています。また、彼の息子である大野東人の存在も記録に残っています。

出自

大野氏は、古代豪族である毛野氏から派生した支族とされています。この出自は、彼の社会的地位や活動の背景を理解する上で重要な要素となります。

壬申の乱での活躍

大野果安が歴史の表舞台に立ったのは、672年に勃発した壬申の乱でした。この内乱で、彼は大友皇子（後の弘文天皇）側の将として、大海人皇子（後の天武天皇）軍と激戦を繰り広げました。大伴吹負率いる大海人皇子軍が倭京（飛鳥の古い都）を制圧し、北上してきた際、大野果安は近江朝廷軍を率いて奈良盆地へと侵攻しました。

及楽山（現在の奈良市内）において、大野果安は吹負軍と激突し、これを打ち破るという戦果を上げました。しかし、この勝利の後、果安は倭京を目前にして進軍を止め、撤退してしまいます。この撤退の背景には、倭京の守りが堅固であるという誤認があったと考えられています。実際には、京を守る兵力は少なく、果安の進軍を躊躇させたのは、荒田尾赤麻呂と忌部子人が設置した、見せかけの楯の列であったとされています。

この時、果安が撤退を選択したことで、大伴吹負は態勢を立て直し、援軍との合流に成功しました。もし、果安がそのまま進軍していれば、歴史は大きく変わっていたかもしれません。

その後の動向

『日本書紀』において、大野果安に関する記述は及楽山の戦いに関するものがほとんどです。その後、この方面の軍の指揮は犬養五十君に引き継がれており、果安が更迭されたのか、五十君の指揮下に入ったのかは不明です。

乱後、大野果安は赦免され、天武天皇や持統天皇に仕えたと推測されています。天武天皇13年（684年）には、大野氏は「大野朝臣」姓を賜っており、果安もこの時に改姓したと考えられます。

『続日本紀』には、天平14年（742年）に亡くなった大野東人の記事の中で、「飛鳥朝廷の糺職大夫、直広肆果安の子なり」と記述されており、果安が確かに天武・持統朝にも仕えていたことが示唆されています。

まとめ

大野果安は、壬申の乱という激動の時代を生き、その歴史に名を残した人物です。彼の生涯は、戦国時代の武将のように、必ずしも全てが明らかにされているわけではありません。しかし、壬申の乱における彼の活躍、そしてその後の動向を通じて、飛鳥時代の社会構造や政治情勢を垣間見ることができます。彼の事績は、古代史研究における重要な一コマとして、今後も注目されていくことでしょう。

参考文献

宇治谷孟『日本書紀 （下）』講談社学術文庫、1988年
宝賀寿男『古代氏族系譜集成』古代氏族研究会、1986年

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