天一坊事件

天一坊事件の詳細

天一坊事件（てんいちぼうじけん）は、江戸時代中期に発生した重要な出来事であり、山伏の天一坊改行が江戸幕府8代将軍・徳川吉宗の落胤を名乗り、多くの浪人を集めていたとされる事件です。この事件は、さまざまな著作や講談を通じて広く知られることとなりました。

事件の経緯

享保13年（1728年）の夏に、この事件の発端が起こります。浪人の本多儀左衛門が関東代官である伊奈忠逵のもとを訪れ、常楽院という山伏の家で源氏天一坊なる者が多数の浪人を集め、将軍の血筋であると称しているという噂を伝えました。これは伊奈にとって非常に不審なことであり、名主や地主を呼んで事情を聴取することとなります。この取り調べによって、天一坊が紀州出身で吉宗の落胤を自称していることが明らかになりました。

吉宗自身もこの話を聞いて「覚えがある」と言ったとされ、将軍家の血筋については不明な点が多く、関東郡代では急いで天一坊を捕まえることは避け、慎重に調査を進めることとしました。

代官の取り調べ

その後、半年以上の時を経て、享保14年（1729年）3月、伊奈は天一坊および常楽院の関係者を郡代屋敷に呼び寄せ、詮議しました。天一坊は自らの出自について語り、紀州田辺で生まれた際の状況や、母親の言葉から自分の素性を高貴なものとして捉え、浪人たちを集めて大名に取り立てられる予感を抱いていたと述べました。

また、彼は浪人たちに対して大名になる際には各自に役職を与えると約束し、自身が公方様と接見したことや公儀からの扶持を受けたが遊女町でのトラブルにより停止されたと主張しました。しかし、これらはすべて虚偽であることが後に明らかになります。

獄門による死罪

結局、天一坊は自らの行為に対しての罰を受けることになります。彼が無断で将軍家の血筋を騙り、浪人を集めた容疑で逮捕され、享保14年4月には、勘定奉行の稲生正武によって死罪の判決が下されました。事件は4月21日に品川・鈴ヶ森の刑場で執行され、彼は命を落とします。また、常楽院や他の関係者も同様の処罰を受け、さらに名主や地主も罰を受ける事態となりました。この事件により、波紋は広がり、捜査に端を発した本多儀左衛門には銀5枚の褒美が贈られました。

大岡政談との関わり

この事件は後に『大岡政談』という名裁きの一つとして語られることになります。しかし、実際には町奉行支配地外で発生したため、大岡忠相はこの事件には何の関与もしていません。江戸時代末期には、初代神田伯山による講談『大岡政談天一坊」が人気を博し、後に歌舞伎や現代の小説、映画、テレビドラマにも題材として取り上げられました。

天一坊事件は、江戸時代の社会構造や人々の心理を考える上で重要な事例となっており、権威を利用した人物の企みがどのような結末を迎えるかを教えてくれます。

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