天正壬午起請文

天正壬午起請文の概要

天正壬午起請文（てんしょうじんごきしょうもん）とは、16世紀の中世日本において作成された起請文で、武田家の滅亡とその後の動乱を背景にしています。この文書は、通称「天正壬午甲信諸士起請文」とも呼ばれています。

背景

1582年、織田信長が本能寺の変で亡くなると、武田家にかつて忠誠を誓った武将たちの立場は急激に変化しました。その年前の3月、織田・徳川連合軍によって甲斐の武田氏が滅ぼされたこともあり、多くの武田遺臣たちはこれからどうすべきかを真剣に考えていました。特に、同年の8月12日に起きた黒駒の合戦で、徳川家康が北条氏を撃破したことで、家康への臣従を決意した武田家臣たちが起請文を提出しました。

起請文の意義

この起請文は、武田家臣団の忠誠心を示す重要な史料として位置づけられており、武田家が滅んだ後の状況を理解する手助けとなっています。原本は失われているものの、内閣文庫や恵林寺、早稲田大学に所蔵されている写本があり、武田家とその家臣の歴史を研究する際に貴重な情報源となしています。また、『浜松御在城記』や『徳川家康御年譜』などの軍記物にも記録されています。

起請文の成立と内容

天正壬午起請文は、家康の動向や甲信諸士の対抗関係などから、1582年8月21日から12月11日までの期間に成立したと推定されています。内容には、州名や武士名が記されており、二十八衆と呼ばれる氏族が挙げられていますが、人数や記載事項は異なるため、これらの文献の差異に注意が必要です。

武田方に名を連ねた者たち

起請文に記された武田方の主な人物には以下の名前があります。

• - 駒井政直: 起請文のまとめ役を担った。
• - 今福昌常: 同じく起請文取り纏め役。
• - 油川刑部助: 武田氏の親類にあたる。
• - 土屋氏: 70名の同心を持ち、井伊直政の配下にあたる。

これらの人物たちは、家康のもとで新しい忠誠の証を示したことで、家康政権下での新たな立場を確保していきました。

徳川家の対応

一方で、徳川家康は武田家臣団に対し、信義をもって報い、武田勝頼の時代と同様の待遇を与えました。これにより、武田家横目衆と呼ばれる人々が甲斐の警備を任されることとなり、後の甲州九口之道筋奉行の設置へとつながります。また、これらの武田家臣団は、徳川家臣として新たな歴史を刻むこととなります。

その後の影響

徳川家康の政権下での武田家臣の処遇を反映した「天正壬午起請文」の成立以降、武田家出身者たちは徳川四奉行として家康の補佐をする役割を果たし、甲斐国における影響力を保持しました。これに伴い、甲府藩や諏訪藩、松代藩など、各種の藩が形成され、信濃地方の歴史に深く影響を与えました。

この文書は、武田家が滅んだ後の歴史と、武田家の忠臣たちがどう生き残りを図り、徳川政権の一翼を担ったのかを知る手掛かりとなります。

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