天神遺跡

天神遺跡：縄文時代の環状集落

天神遺跡は、山梨県北杜市大泉町に位置する複合遺跡であり、特に縄文時代の環状集落が主要な特徴となっています。八ヶ岳南麓の標高800-850mの尾根上に位置し、豊かな自然環境に恵まれた場所にあります。

立地と周辺環境

北杜市域は湧水が豊富で、縄文時代から中世にかけての遺跡が数多く分布しています。近隣には、縄文後期の配石遺構を伴う金生遺跡や、奈良・平安時代の遺跡も存在し、古代には甲斐の三御牧の一つである柏前牧があったと考えられています。また、中世の谷戸城跡など、各時代の遺跡が点在しています。

発掘調査の概要

天神遺跡は、圃場整備事業に伴う試掘調査によって1981年に発見され、山梨県教育委員会によって発掘調査が実施されました。調査区域は10ヘクタールに及び、A・B・Cの3区に区分されています。A区は縄文中期、B区は平安時代、C区は縄文前期の遺構が主体となっています。

各区の調査成果

A区: 縄文中期の集落跡で、曽利Ⅱ-Ⅲ式期の建物跡5棟、土坑3基、埋甕5基が検出されたほか、平安時代の建物跡1棟も発見されています。
B区: 縄文中期五領ヶ台式期の建物跡3棟に加え、平安時代の建物跡4棟と土坑13基が検出されています。
C区: 縄文前期の大規模集落跡であり、墓坑群を伴います。建物跡61棟（縄文前期諸磯b式期29棟、諸磯c式期10棟、bないしc式期10棟、縄文中期五領ヶ台式期9棟、平安時代の建物跡3棟）、土坑488基が検出され、縄文土器や石器、土偶などの遺物が出土しています。

環状集落の特徴

C区の縄文前期建物群は、中心の墓坑域を囲むように環状に配置された中央墓坑形環状集落を形成しています。その直径は150メートル以上にも及びます。各建物は直径4-5メートルの円形で、中心には炉が設けられています。建物内からは様々な遺物が出土しており、当時の生活を知る手がかりとなっています。

出土遺物

出土した土器は、深鉢や浅鉢、有孔土器など多様な種類があります。石器としては、縄文前期に特徴的な打製石斧や磨製石斧、石錐、石匙、石鏃などが出土しています。また、土偶も1点出土しています。墓坑からは、副葬品と考えられる土器や、装身具としてヒスイ製の耳飾が出土しており、当時の精神文化を垣間見ることができます。

周辺遺跡との関連性

天神遺跡の周辺には、山崎・御所・原田・寺所など、縄文前期の集落遺跡が数多く分布しています。天神遺跡の環状集落遺構は、これらの集落間の関係を把握する上で重要な資料となります。各集落がどのように連携し、どのような社会構造を持っていたのかを考察する上で、天神遺跡は重要な位置を占めています。

出土品の保管場所

天神遺跡から出土した遺物は、山梨県埋蔵文化財センターや山梨県立考古博物館に所蔵されており、研究や展示に活用されています。

参考文献

新津健「天神遺跡」『山梨県史資料編1原始・古代1考古（遺跡）』
網倉邦生「天神遺跡出土石匙の起源と系譜」『山梨県立考古博物館・山梨県埋蔵文化財センター研究紀要』第19集、2003

外部リンク

遺跡トピックス№0031 天神遺跡（山梨県埋蔵文化財センターHP）

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