太伯・虞仲

太伯と虞仲の歴史

太伯（たいはく）と虞仲（ぐちゅう）は、周王朝の古公亶父の子として知られる兄弟です。彼らは紀元前12世紀から11世紀頃に活躍した人物で、姓は周宗家と同じ姫（き）。太伯は長男で、後に呉の祖となり、虞仲は次男として知られています。

経歴

古公亶父には、太伯、虞仲、そして末子の季歴の三人の息子がいました。季歴が生まれた際、様々な良い前兆があり、この子の後を継ぐのは昌、つまり文王になるだろうと父は期待していました。太伯と虞仲はこの父の意向を受け、季歴を後継者にするために自ら出奔を決意しました。

彼らは荊蛮の地へと向かい、周の者が二人を迎えに来ても、全身に刺青を施し、髪を短く切ることで、彼らは中華に帰るのに相応しくない人物であると主張しました。その後、太伯は句呉（こうご）という国を立て、荊蛮の人々の多くが彼に従ったため、この国は後に呉と呼ばれるようになります。太伯が亡くなった際に子がいなかったため、弟の虞仲が彼の地位を継承しました。

その後、武王は虞仲の曾孫である周章を呉に封じ、また別の虞仲を北方の虞に封じました。このようにして、太伯と虞仲は呉と虞という二つの国の祖となりました。なお、歴史学者の楊寛は史記の記述に対して疑義を示しており、彼は太伯と虞仲が最初に建国したのは虞であり、呉はその分家であった可能性を指摘しています。

評価

『史記』では太伯を含む「呉太伯世家」が世家の中で最初に挙げられており、これは周の長男の末裔である呉への敬意を表していると考えられます。また、『論語』の泰伯篇では、季歴に地位を譲ったことが孔子によって「泰伯はそれを至徳と評価すべきである」と高く評価されています。

日本に関する伝承

興味深いことに、日本においても太伯に関する伝承が存在します。髪を短く切るのは水中での邪魔にならないようにするためで、刺青は魚を威嚇するためとされる風習が呉地方の漁民に見られることが記録されています。また、歴代中国の史書には、日本が太伯の末裔だという伝説も存在します。例えば、『翰苑』や『魏略』の逸文などには、「自謂太伯之後」と述べられています。

このような太伯末裔説は早くも3世紀後半に表れておりますが、呉の滅亡が紀元前473年であったことから、時間的な隔たりが大きいことも指摘されています。南北朝時代には禅僧の中巌円月が日本を太伯の末裔であると述べており、一方で北畠親房はこの説を批判していました。江戸時代に入ると、儒学者の林羅山がこの説を支持することになりますが、一方で他の学者たちはこの考えを「曲筆空想」や「漢民族の中華思想の産物」と見なしました。

このように、太伯と虞仲の足跡は単なる歴史的事実ではなく、様々な解釈と伝承を通じて現代にまで受け継がれています。彼らの存在は、歴史研究における重要なテーマであり続けます。

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