太宗 (宋)

北宋の太宗：謎多き皇帝の生涯と業績

太宗（たいそう）は、北宋の第2代皇帝であり、その治世は976年から997年に及びます。兄である太祖趙匡胤（ちょうきょういん）の死後、後を継いで即位しましたが、その過程には多くの謎が残されており、暗殺説も根強く存在します。太宗は、兄の路線を継承しつつも、文治主義を重視した政治を行い、北宋の安定に大きく貢献しました。

生い立ちと即位

太宗は、後晋の天福4年（939年）に、趙弘殷（ちょうこういん）の三男として生まれました。幼い頃から学問を好み、父の趙弘殷は、彼のために古書を探し求めたと言われています。兄の趙匡胤が後周の将軍として活躍する際には、常にその側で補佐し、陳橋の変では、趙匡胤を皇帝に擁立する中心的な役割を果たしました。太祖が即位すると、太宗は晋王に封じられ、宰相よりも上位の序列を与えられました。太祖の親征には常に同行し、首都の留守を任されるなど、その右腕として重責を担いました。

太祖の死後、通常であれば息子が後を継ぐべきところを、弟の太宗が即位したことには、多くの人々が疑問を抱きました。この出来事は「千載不決の議」と呼ばれ、太宗による暗殺説も後を絶ちませんでした。さらに、太祖の次男である趙徳昭（ちょうとくしょう）を自殺に追い込み、四男の趙徳芳（ちょうとくほう）が不可解な死を遂げた後、自分の息子である趙恒（ちょうこう：後の真宗）を太子に立てたことは、正統性を重んじる宋朝において、常に批判の対象となりました。

治世と業績

太宗の治世において、特筆すべきは中国の再統一を成し遂げたことです。太平興国3年（978年）には、泉州の清源軍節度使陳洪進（ちんこうしん）が領土を献上し、呉越の銭俶（せんしゅく）も両浙の13州を献上しました。翌太平興国4年（979年）には、北漢を滅ぼし、これにより、五代十国時代から続いていた分裂状態に終止符が打たれました。統一を成し遂げた太宗は、その勢いに乗じて、遼から燕雲十六州を奪還しようと試みましたが、高梁河の戦いで敗北を喫し、開封に撤退しました。また、太平興国5年（980年）には、前黎朝大瞿越の黎桓（れいかん）を討伐するために遠征軍を送りましたが、こちらも敗退に終わりました。

内政面では、太祖の路線を継承しつつも、軍事力よりも文官を重視する政策を打ち出しました。科挙によって大量の文官を採用し、監察制度を整備することで、軍人政治から文治主義への転換を成功させました。

評価と逸話

『宋史』では、太宗の治世中に陳洪進や銭俶といった地方勢力を統合し、北漢を滅ぼして中国をほぼ統一したことを高く評価しています。また、北漢や遼、ベトナム、西夏との戦役や、黄河の氾濫、蝗害などの天災が相次ぐ中、民衆が反乱を起こさなかったのは、太宗が倹約と慈悲を旨とする政治を行ったからだと評しています。しかし、太祖が亡くなった際に改元をせず、太祖の次男である趙徳昭を自殺に追い込み、太祖の皇后の喪を行わなかったことなどは、非難されて当然だと記されています。また、太祖の死と帝位継承を巡る議論は「千載不決の議」として、後世にまで語り継がれています。

太宗には、囲碁を好む一面もあり、自分で詰碁を作るほどの腕前であったと伝えられています。また、『水滸伝』の宋江のモデルが太宗であるという説も存在し、文豪の森鴎外もその説に触れています。

対日本観

太宗は、雍熙元年（984年）に入宋した日本の僧である奝然（ちょうねん）を厚遇し、紫衣を授けました。奝然との面会で、日本の天皇が代々一族で世襲されている（万世一系）と聞き、その臣下も官職を世襲していることを知ると、太宗は嘆息したと言われています。このことから、太宗が理想とする王朝は、皇帝だけでなく臣下も下克上なしに続くものであったことが伺えます。

家族と宰相

太宗には、多くの后妃と子供たちがいました。正室の尹氏（いんし）、継室の符氏（ふし）、皇后の李氏（りし）の他、多くの側室がおり、特に、三男の趙恒は、後の真宗として皇帝の位を継ぎました。また、薛居正（せつきょせい）、沈義倫（しんぎりん）、盧多遜（ろたそん）、趙普（ちょうふ）、李昉（りぼう）、宋琪（そうき）、呂蒙正（りょもうせい）、張斉賢（ちょうせいけん）、呂端（りょたん）などの宰相を任命し、政治を支えさせました。

太宗が登場する作品

太宗を主人公とする、または太宗が登場する作品として、映画『楊家将〜烈士七兄弟の伝説〜』や、テレビドラマ『楊家将伝記 兄弟たちの乱世』、『大宋宮詞 〜愛と策謀の宮廷絵巻〜』などがあります。また、漫画『楊家将奇譚』にも登場します。

まとめ

太宗は、北宋の基礎を築いた重要な皇帝の一人です。その即位には多くの謎が残り、暗殺説も囁かれていますが、その治世における業績は高く評価されています。文治主義を推進し、科挙制度を確立することで、その後の宋朝の繁栄に大きく貢献しました。また、中国の再統一を成し遂げたことは、彼の大きな功績と言えるでしょう。

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