太皷谷稲成神社

太皷谷稲成神社：歴史と文化が息づく島根の霊場

島根県鹿足郡津和野町に位置する太皷谷稲成神社は、別表神社に指定され、かつては郷社として崇敬を集めてきた由緒ある神社です。地元では「津和野のおいなりさん」として親しまれ、日本五大稲荷の一つに数えられ、出雲大社に次ぐ参拝者数を誇ります。

歴史：藩の祈願所から信仰の中心地へ

安永2年(1773年)、津和野藩7代藩主・亀井矩貞が、藩と領民の安寧を祈願して京都の伏見稲荷大社から神霊を勧請し、津和野城の鬼門にあたる太鼓谷の峰に創建したのが始まりです。当初は藩主のみが参拝を許される城内社でしたが、廃藩後は一般の参拝も可能となり、信仰は広く地域に根付きました。

慶応3年(1867年)には、津和野藩による神社整理が行われ、乙女山にあった熊野権現社を合祀し、社号を熊野神社と改称しました。その後、大正12年(1923年)に現在の元宮となる社殿が建立され、翌年には皇族の北白川宮富子妃殿下が参拝し、貴重な宝物を寄進されました。昭和2年(1927年)に社号を太皷谷稲成神社に戻し、昭和10年(1935年)には郷社に列格しました。

参拝者の増加に伴い、昭和44年(1969年)には新たな拝殿・本殿が建立され、遷宮が行われました。旧社殿は「元宮」として現在も残されており、分霊が祀られています。近年では「日本五大稲荷」の一つとして広く知られるようになり、その信仰はますます盛んになっています。

由緒ある社名と祭神

神社の名称にある「太鼓谷」は、津和野城の城山の一角に位置し、江戸時代には時刻を知らせる太鼓が鳴り響いていた谷間であったことに由来します。「稲成」という表記は、願い事が成就するようにとの願いが込められています。

藩主のみが参拝を許されていた時代、城の御蔵番が蔵の鍵をなくして切腹を命じられましたが、七日七晩願掛けをしたところ鍵が見つかり助命されたという故事があります。このことから、藩主によって「稲成」と称されるようになり、全国で唯一「いなり」を「稲成」と表記する神社として知られています。なお、同名の神社は太皷谷稲成神社とは無関係であることを公式サイトで明記しています。

祭神は宇迦之御魂神（稲荷大神）と伊弉冉尊（熊野大神）です。

見どころ：荘厳な境内と貴重な宝物

境内には263段の石段と約1000本の鳥居が連なる表参道、昭和47年(1972年)に建立された壮麗な神門、油揚げを供える習わしのある拝殿・本殿、祭神に最も近い位置にある本殿裏参拝所、歴史を感じさせる元宮など、見どころが満載です。

また、宝物殿には、特別社宝、書画、美術工芸品など貴重な品々が数多く収蔵されています。藩主ゆかりの甲冑や絵画、書簡、そして北白川宮妃殿下が奉納した神狐像など、歴史的価値の高い品々を見ることができます。これらの多くは、津和野の歴史と文化を伝える貴重な資料となっています。

境内には元宮のほかに命婦社があり、稲成大神の眷属である白狐神が祀られています。

祭事

太皷谷稲成神社では、毎月1日と15日の月次祭、初午大祭、春季大祭、例祭、秋季大祭、新嘗祭など、年間を通して様々な祭事が行われています。

文化財

神社には、島根県指定文化財として、古文書、天球儀、地球儀、伊能忠敬の測量図の模写などが指定されています。これらの文化財は、太皷谷稲成神社の歴史と文化を後世に伝える貴重な遺産です。

太皷谷稲成神社は、歴史と信仰、そして豊かな自然が調和した、まさに霊場と言える場所です。訪れた人々は、その荘厳な雰囲気と、静寂に包まれた空間の中で、深い感動とやすらぎを得ることができるでしょう。

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