奈佐日本之介

戦国時代から安土桃山時代にかけて活動した武将であり、海賊衆の頭領とされた人物です。読みは「なさやまとのすけ」、あるいは「にほんのすけ」とされます。表記は奈佐日本助や奈佐日本介とも見られます。隠岐水軍を率いたことで知られています。

出自

奈佐氏は但馬国（現在の兵庫県北部）の日下部氏の一族で、但馬城崎郡の奈佐谷を本拠とし、その地名を姓としました。奈佐日本之介はこの但馬奈佐氏の嫡流にあたり、津居山（現在の豊岡市城崎町）を活動の拠点として強い影響力を持っていました。当初は山名氏の勢力下にあり、山陰地方の沿岸部を支配していました。織田信長の勢力に対抗する過程で「海賊衆」と称されるようになりますが、これは本来の意味での海賊ではなく、織田氏から見た敵対勢力に対する呼称であったと考えられています。

隠岐水軍

奈佐日本之介が率いた隠岐水軍は、主に隠岐島（現在の島根県隠岐諸島）を中心に活動した水軍集団です。西日本海の制海権を掌握し、その勢力は最盛期には隠岐、但馬、丹後、若狭といった広範囲に及びました。特に丹後地方では「丹後水軍」として恐れられました。

略歴

但馬地方の混乱により、かつての奈佐氏の威勢が衰退すると、日本之介は地域で独自に力を持っていた漁師集団を制圧し、自らの勢力を拡大しました。「海賊衆」という異名はこの活動に由来するという説もあります。

元亀元年（1570年）、山中鹿之助が尼子勝久を盟主として尼子家の再興を目指し立ち上がると、日本之介は協力を求められます。毛利氏が支配する山陰地方への侵攻を計画した鹿之助に対し、日本之介は3,000の兵を率いて出雲国（現在の島根県東部）へ攻め入りました。数百隻の船団を率いて満願寺城を攻め落とし、月山富田城を海上から取り囲むなど、その水軍力を駆使して戦いましたが、天正元年（1573年）、毛利輝元や吉川元春が大軍勢を率いて城を取り戻すために攻め寄せると、鹿之助は重傷を負い、日本之介も降伏するなど、大敗を喫しました。この戦いの後、日本之介は吉川元春から中国地方平定への協力を求められ、隠岐水軍は吉川氏率いる山陰軍の一部門として組み込まれることになりました。

鳥取城の戦い

天正期に入り、織田信長の勢力が中国地方まで及ぶようになると、信長によって海賊行為が禁じられます。これに対し、日本之介は同じく但馬芦屋城を拠点とする塩冶高清（山賊衆と呼ばれた）と共に毛利方に加わって抵抗しました。しかし、勢いを増す織田勢力には抗しきれず、但馬を追われます。そして最終的に、天正9年（1581年）、因幡国（現在の鳥取県東部）の鳥取城において、吉川経家が率いる毛利勢と共に、織田氏の中国方面司令官であった羽柴秀吉と対峙することになりました。

日本之介は鳥取城の北方に位置する丸山に丸山城を築き上げ、高清が守る雁金山城と共に鳥取城への食糧供給線を担いました。また、腹心であった隠岐水軍の佐々木三郎左衛門らに500の兵を与え、鳥取城内へ派遣しました。

しかし、秀吉の家臣である宮部継潤により、鳥取城、雁金山城、丸山城を結ぶ食糧の補給路は断たれてしまいます。さらに小西行長に食糧を法外な高値で買い占められ、食糧が尽きた鳥取城内には前代未聞の悲惨な飢餓状態が発生しました。同年9月には毛利氏から海上経由で救援物資が送られたものの、日本之介の軍船と共に、織田方の細川藤孝（長岡藤孝）らによって、千代川の河口付近で撃沈されてしまいました。天正9年（1581年）10月、餓えから人肉を食らうまでに至った鳥取城内の悲惨な状況を見かねた経家は、自身の命と引き換えに、城内の将兵の助命を条件として秀吉に降伏を願い出ました。これに対し秀吉は、経家の武勇を惜しみ、助けようと考えましたが、日本之介と高清が日頃から貿易船を襲う海賊行為を行っていたことを非難し、二人の切腹を強く要求して譲りませんでした。秀吉は毛利家の海軍力を恐れており、特に強力な力を持っていた日本之介を排除しておく必要があると考えていたとされています。

結局、経家が自刃する前の天正9年10月24日、日本之介は塩冶高清と共に陣所で切腹し、その生涯を終えました。鳥取城内に派遣されていた佐々木三郎左衛門も後に切腹を命じられ、これにより隠岐水軍は崩壊しました。なお、隠岐国はその後、吉川家の支配下に置かれました。

日本之介が守った丸山城の西麓には、奈佐日本之介、塩冶高清、そして佐々木三郎左衛門の3名の供養塔が建てられています。奈佐氏の子孫は、江戸時代を通じて旗本として家系が存続しました。

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