妹尾一朗

妹尾一朗（せのお いちろう）は、1947年6月11日に宮城県塩竈市で生まれ、2015年6月26日に没した日本の洋画家です。彼は、生命と宇宙の神秘をテーマに、動植物をモチーフとした幻想的な絵画世界を描き出しました。その作品は、油彩やテンペラといった伝統的な技法を用いながらも、独特の表現力と繊細な感性によって、見る者の心を深く捉えます。

画歴

1971年、上智大学文学部社会学科を卒業後、1972年には東京芸術学園を卒業しました。1973年には独立展に入選し、画家としてのキャリアをスタートさせます。1975年にはブロードウェイ新人展で新人賞第一席を受賞し、同ギャラリーと契約。同年には太陽美術展で銅賞を受賞するなど、その才能は早くから高く評価されました。1976年にはフランス国際展で国際賞を受賞、ル・サロン交流展に選抜されるなど、国際的な舞台でも活躍しました。同年、ブロードウェイギャラリーにて個展を開催し、太陽美術展では銀賞を受賞、太陽美術協会の会員となります。1977年には第一回日洋展に入選し、ル・サロン展で銅賞を受賞しました。その後も、1978年には第一回現代の裸婦展に招待出品（日動画廊）、1981年には81東京セントラル美術館油絵大賞展に出品、1983年には第一回上野の森美術館絵画大賞展、83東京セントラル美術館油絵大賞展に出品するなど、精力的に活動を続けました。

1983年には、宮沢賢治作の絵本「十力の金剛石」を福武書店から刊行しました。1984年には第19回昭和会展（日動画廊）に出品、現代の裸婦展にも招待出品（日動画廊）するなど、数々の展覧会に参加。1986年には第21回昭和会展に出品しました。

個展

1975年から1984年まで、銀座ブロードウェイギャラリーにて毎年個展を開催しました。1977年には新宿伊勢丹、1978年には渋谷西武、その他、名古屋松坂屋、新宿小田急、神戸そごう、大阪阪急など、全国各地の百貨店でも個展を開催しています。1997年にはスペースユイ、2000年にはギャラリーイノウエ・ハウス、2002年には朝日画廊、2005年には三興画廊、2012年にはぎおん石銀座店、2013年にはギャルリー志門にて個展を開催しました。2016年には、銀座にて妹尾一朗回顧展が開催されました。

経歴

妹尾一朗は、代々軍人の家系に生まれましたが、母親が日本画家（妹尾貞子）であり、川崎小虎や望月春江といった日本画院の幹事を務めていた影響もあり、幼少の頃から絵に興味を抱いていました。上智大学では社会学（心理学）を専攻する傍ら、本格的に画道に入り、独学で素朴絵画の世界観を切り開きました。大学卒業後は外資系化粧品会社に就職しましたが、絵を描く時間が確保できなかったため、1年余りで退社し、画家としての道を歩み始めました。

作風と変遷

初期の作品には、アンリ・ルソーの影響が強く見られましたが、晩年の作品では、ジョルジュ・デ・キリコやアンドレ・ボーシャンにも似た心象的な表現が見られるようになりました。妹尾自身は、「都市型人間社会が滅亡した後、再び人類が原始に戻りゆく様を描きたかった」と語っており、その作品には、人間の内面的な世界や、宗教的な象徴性が強く表れています。彼は、目を閉じて見えてくる心象風景や、肉体を超越した異次元世界をモチーフとすることが多く、その独特な世界観は、多くの人々を魅了しました。

評価

美術評論家の小川正隆は、妹尾の作品を「文明に穢されていない清浄で原始的な風景が展開されており、自然の理想郷で夢見ているかのよう」と評しています。また、「一見するとアンリ・ルソーの幻想に共通する世界観だが、じっと見つめていると、ルソーとは異なる優しくも静かな、叙情的な詩情で濡れている世界観が其処に在る」と述べています。小川は、妹尾の純真な輝きをいつまでも大切にしてほしいと願っています。

妹尾一朗の作品は、見る者に深い感動と静かなる思索を促し、その独特の世界観は、現代においても多くの人々を魅了し続けています。

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