孝廉

孝廉（こうれん）とは

孝廉とは、中国の前漢時代に武帝が制定した「郷挙里選（きょうきょりせん）」という人材登用制度における科目の一つです。具体的には、父母への孝行（親孝行）に優れ、私欲がなく清廉潔白な人物を地方から中央に推挙する制度を指します。

制度の概要

武帝は、董仲舒（とうちゅうじょ）の進言を受け、元光元年（紀元前134年）に各地方から孝者と廉者を一人ずつ推薦するよう命じました。この制度が「孝廉」と呼ばれるようになり、漢代の人材選抜において最も重要な科目となりました。孝廉に推挙されるのは、儒教的な教養と高潔な人柄を兼ね備えた人物でした。

通常、在野の人や身分の低い役人が、郡の太守や諸侯の相によって孝廉に推薦されました。推薦された人物は中央に派遣され、すぐに官職に就くのではなく、まずは郎署（ろうしょ）に配置され郎官（ろうかん）として宮廷の警護や雑務を担当しながら、実務経験を積みました。一定期間後、郎中（ろうちゅう）という役職を経て、能力に応じて県令や中央官職に選ばれるという流れでした。後に、推薦対象者は六百石未満の身分に制限されました。

陽嘉元年（132年）には、尚書令の左雄（さゆう）の建議により、孝廉に応じる者は40歳以上という年齢制限が設けられました。ただし、特に優れた才能と品行を持つ人物は、年齢に関わらず推薦されることもありました。また、儒生出身者には経典の知識、文吏出身者には文書作成能力の試験が義務付けられ、官吏登用試験としての整備が進みました。

制度の変遷と形骸化

孝廉として推挙されながらも、霊帝時代の華佗（かだ）のように任官を拒否する者もいました。また、孝廉による推挙は受けたものの、その後の登用を拒否し、別の推挙制度による登用を選ぶ者もいました。これは、採用後の待遇や当時の政治状況などが影響したと考えられています。

しかし、時代が下るにつれて、役人や権力者、豪族との結びつきが強まり、彼らの子弟が優先的に推挙されるようになりました。その結果、制度は形骸化し、恒帝や霊帝の時代には、孝廉による推挙を拒否する者も増えました。地方の権力者の意向が強く反映されるようになった孝廉制度は、その役割を十分に果たすことができなくなり、魏の時代に九品官人法が施行されることで縮小しました。その後も、晋朝や南北朝時代を通じて形骸化が進み、隋朝で科挙が導入されるに至りました。

孝廉科は、地方長官による推薦制度から科挙制度への過渡期に存在した制度と言えるでしょう。

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